9月入学・始業は経済的にペイするのか

コロナウイルスから目をそらせるためなのか、どさくさ紛れなのか野党も安倍内閣も9月入学に前のめりだ。

だがこの緊急時に、入学時期の変更は必要なのか。平時にじっくり考えるべき大きな課題である。

そもそも、経済的にはペイしない。

 

単純に入学時期を延ばして、9月入学にすると生徒・学生が社会に出るのが0.5歳遅くなる。彼らの給与が年300万円、毎年の卒業者が100万人とすると、GDPを毎年1.5兆円減らすことになる。

一方、子供たちにとって生涯収入の6か月分が大人の思惑のためにカットされるので、他人ごとではない。彼らは選挙権を持っていないので、異議を唱えることはできない。

また、財政面でも、税と社会保険を20%とすると、毎年3千億円の穴が開く。

これらに勝るメリットがあるかである。

 

5/12日経「G20,4月入学は日印のみ」によれば、日本からの留学は3万人、日本への留学は16万人である。純輸入は、13万人。彼らの内需への貢献は一人当たり年2百万円消費するとして、26百億円に過ぎない。9月入学によって、日本からの留学も、日本への留学もともに増えるので、ネットの影響はゼロであろう。

 

賛成する側の主張は、1.学力の遅れを取り戻す、2. 国際的に9月入学が主流で、留学や留学生の受け入れがやり易くなる。

1は、生徒や学生に頑張ってもらう。これまでに長い休みがあったのだから、夏休みや冬休みをつぶして勉強に充てる。

2は、数値での具体的メリットが示されていない。情緒的な感想に過ぎない。日経の記事は、政権への迎合であろう。

毎年の経済損失1.5兆円を正当化する理由は見出せない。

 

安倍首相は4/29の衆院予算委員会で「前広に様々な選択肢を検討したい」と述べ、杉田官房副長官は関係府省の事務次官に論点整理を指示したり、自民党には作業部会を立ち上げる手際の良さが際立つ。

留学生の受け入れが見込める特定大学とのつながりを連想するのは、下種の勘繰りか。

 

安倍首相は、(2016年1月)7日の参院本会議での答弁で、慰安婦問題をめぐる昨年(2015)12月の日韓合意について「私たちの子や孫、そしてその先の世代の子供たちに謝罪し続ける宿命を背負わせる訳にはいかない。今回の合意はその決意を実行に移すために決断したものだ」と次世代に配慮する言葉を述べた。

子や孫を心配するような言葉を発する安倍首相が、実際にやるのは子や孫に収入の減額を強いる冷酷さである。