分配強化は日本経済を強くするか

2/16日経経済教室・賃上げへの課題、上「分配強化へ開示改革こそ」スズキ・トモ早稲田大学教授。

 

「新しい資本主義」の理念や実態を明らかにする出稿。分配と持続可能の両立が可能になるかを探る。

富裕層に蓄えられる富をいかに勤労者階層に回すかを論じる。その富が成長戦略に投じられるかは問うていない。勤労者階層へ流れた富が、自然に消費を拡大することを想定している。消費拡大が成長の肝であるとする考え。日経などは成長戦略なくして経済の成長はないとしているが、30年間成果のなかった成長戦略をいまだに擁護するのは奇妙だ。

 

これまで富裕層の富を再分配する方法として、富裕層への課税強化が唱えられていた(岸田首相の当初の主張)。スズキ教授は、上場企業の株主資本還元率を1%低いレベルに設定することを提唱する。これは、上場企業の株主資本還元を1998年から2020年までの結果から導かれる。2020年には、株主資本還元(配当+自社株買い)は、22兆円ほどである。他方、市場からの資金調達は、2兆円ほどである。これは、1999年を除き、一貫した傾向である。近年その傾向がとみに上昇している。教授は、海外投資家の持ち株比率が3割を超え、分配された富が海外に流出していることも指摘する。財務省「法人企業統計」によれば、過去20年で配当金が5倍超に増えた一方、従業員給与は15%減った。利益最大化のために賃上げが抑制され、投資が犠牲になる構造があらわになっている、と指摘する。

 

企業統治指針の思想は株主寄りに傾き過ぎている。株主は経営者の雇用主であり、経営者はボスである株主に従わざるを得ない。株主と経営者の癒着はここに始まる。株主に良いことは国民経済に良いとは限らない。

 

スズキ教授の試算では、株主資本還元率を1%下げる。役員給与を50百万円/人、従業員には現金給与を10%引き上げる、さらに分配可能剰余金が残るのでそれを従業員持ち株制度を利用して従業員の資産形成のために分配する(この資金は、従業員拠出の資本金であり、安定した設備投資、R&D資金の確保となる)。この結果、従業員への分配が58%(何と比較してかは不明)、事業再投資は23%、所得税社会保険料は18%増える。

魔法のような計算である。

WinWinが成立している。

株主資本還元率を変更するのは民間である。国がどこまで関与できるかは工夫がいる。