岩田規久男・元日銀副総裁の総括

どうして自己正当化するのか、素直に現実を見ることができないのか。


緩和推進「単純すぎた」 岩田・前日銀副総裁 物価2%目標実現できず
2018/3/28付日本経済新聞 朝刊
 日銀が異次元の金融緩和を始めて5年。積極策を主導した「リフレ派」の岩田規久男・前副総裁が19日の退任後、日本経済新聞の取材に応じた。国債の大量買いによるマネー供給で物価上昇2%が実現するという5年前の就任時の考えを「単純すぎた」と語った。積極的な財政政策をめざして政府と日銀の共同声明を見直す考えにも触れた。主なやり取りは以下。


 ――5年前は国債買い入れ額の「量」だった金融政策の軸を2016年に「金利」へ変えました。

 「長期国債を大量購入してマネーを供給すべきだとした副総裁就任前の主張は、その後の金融政策の理論と実証研究の進歩から判断すると単純すぎた。就任後に実証研究などが進化し、生まれたのが(16年に日銀が採用した考え方である)短期と長期の金利を固定する現行のイールドカーブ・コントロールだ。需給状況を踏まえて金利操作する現行政策は2%達成に最善の仕組みだ」

 ――就任時、2年後の物価上昇率が2%に達しなかったら「辞任する」と発言しました。

 「最高の責任の取り方は辞任との考えは今も変わらない。ただそれは金融緩和策が不十分で説明責任も果たせない時の最終判断だ。今の金融政策は副作用の少ない最善策で、2%未達の理由も説明してきた。『辞任』の言葉が一人歩きして誤解されたことを思うと、発言しない方がよかった」

 「2%未達の最大の理由は14年4月の消費増税だ。多くのリフレ派が反対したこの増税がなければ14年夏ごろに2%に到達したはず。19年10月の消費増税は、消費を冷やして物価を下押ししないと確信できない限り再延期が必要。増税は日程ありきではなく、経済情勢に応じて決断すべきだ」

 ――物価上昇2%達成には何が必要ですか。

 「共同声明の再構築だ。今、金融政策がデフレ脱却に向けた仕組みを整える一方で財政政策は不十分。日銀が19年度ごろとみている2%の達成時期はまた先送りの可能性がある。財政再建のスピードを物価の実態に合わせて調整するとの趣旨を含む新たな声明を検討したらどうか。増税は慎重な判断が必要で、(教育分野の歳出にあらかじめ使途を定めた)教育国債の発行も一案だ」

 「リフレ派は大胆な金融政策を主張してきたが、そのうえで財政政策との協調も不可欠だという従来の主張ももっと前面に出すべきだった。金融緩和はデフレ脱却の基盤だが、構造改革財政出動も必要だ」

 ――金融市場では、日銀が金融政策の正常化へ乗り出すとの観測が絶えません。

 「2%到達前に日銀が出口を模索するとの見方は金融市場の誤解だ。日銀は出口のシミュレーションをしていても、実行するのはまだ先だろう」