原発安全性 割れる司法 高裁支部、川内の停止認めず

4/7日経「九州電力川内原子力発電所1,2号機(鹿児島県)を巡り、福岡高裁宮崎支部が6日、運転差し止めを認めない決定を出した」。

これに対して日経は、大津地裁の決定とは正反対の結論で、国のエネルギー政策や電力会社の経営が不透明な状況に変わりはない、と批判する。見出しで、「高度な技術、判断難しく」と裁判所が技術評価を理解できていなと思わせるような書き方である。

日経の評価は原子炉の安全評価を物理的性能だけに着目している。リスク評価とはポイントがずれている。

司法の判断は地域と住民にどれだけのリスクがあるかという観点からであり、その意味では大津地裁福岡高裁宮崎支部も判断の基準は共通しており、「割れる司法」という指摘は当たらない。

それは大津地裁の決定文「過酷事故が生じても致命的な状態にならないように策定すべきだ」に端的に表れている。「致命的な状態」がどのような状態かは、その地域に原子炉が何基あってそこに住民が何人いるかによる。

高浜を含む福井県には9基の原子炉が稼働を予定されている(内訳は末尾の参考データ)。そこに暮らす住民は4万人。これに対し川内は2基で、10.2万人である。

単純に計算すると福井県でのリスクは9×4万=36万、川内は2×10.2万=20.4万。福井でのリスク管理は川内より1.8倍強化されなければならない。逆に川内は福井よりも緩い基準でも「致命的な状態」には至らない。ここに大津地裁と宮崎支部の決定の違いが生じたのであろう。通底する地域や住民への目線は変わらない。

(参考データ)
福井県 高浜4基(人口1.1万人)、大飯4基(人口1.8万人)、美浜3基(うち2基は廃炉予定)(人口1.1万人)、計11基(運転継続は9基)(人口4.0万人)。
鹿児島県 川内2基。川内市10.2万人。

原発安全性 割れる司法 高裁支部、川内の停止認めず
高度な技術、判断難しく
2016/4/7付日本経済新聞 朝刊

 九州電力川内原子力発電所1、2号機(鹿児島県)の運転差し止めを求めた仮処分申請に対し、福岡高裁宮崎支部が6日、差し止めを認めない決定を出した。関西電力高浜原発3、4号機(福井県)の運転停止を命じた3月の大津地裁決定とは反対の結論。国内で唯一稼働する原発が止まる事態にはならなかったが、国のエネルギー政策や電力会社の経営が不透明な状況に変わりはない。

原発差し止め今度は認めず 司法が揺らすエネ政策
安全性の理解浸透カギ
2016/4/6付日本経済新聞 夕刊
 九州電力川内原子力発電所1、2号機(鹿児島県)だけでなく、全国各地の原発で運転差し止めを求める訴訟や仮処分申請が相次いでいる。原子力規制委員会による原発の安全審査とは別に司法が個々に判断しており、国のエネルギー政策が混乱しかねない。国や電力会社は東京電力福島第1原発事故で失った信頼の回復に向けて原発の安全性をより丁寧に説明する姿勢が求められそうだ。