日銀総裁「経済・金融のファンダメンタルズを反映した円安であれば全体として日本経済にはプラスである」

分かったようで分からない発言である。現在の経常収支の下、短期的には為替変動は輸出企業VS内需企業、家計の損得の付回しで、国全体ではゼロサムのはずだが。

総裁の発言の真意は、下記のロイターの記事に報じられている。「国際的に展開する企業の収益を改善させ、株価の上昇などプラスの効果」が「輸入コストの上昇や価格転嫁を通じて非製造業の収益や家計の実質所得の押し下げ圧力」よりも大きいということである。これを差し引きすると、「株価の上昇」がプラス要因として残る。

総裁はあからさまに経済の2極分化を容認しているのだが、そもそもインフレターゲット論はそこからスタートするので、総裁発言の是非は問うてもしょうがない。問題は先に利益を手にした輸出主導の企業や資産家が牽引車となって非製造業や家計を引っ張り上げられるかである。輸出主導の会社や資産家が利益を溜め込むだけでは経済の歪みが大きくなるだけでなく、経済は拡大しない。


溜め込んだ利益をうまく経済全体に回すのが政治の役割であるが、政治家はそのことには目をつぶり円安が経済に悪い影響を与えると言い出す。内需型企業への補助金、等々。政治資金より性質が悪いと思うけどね。金額が桁違いなので。

円安による悪影響を緩和する王道は、海外からの供給に依存するようになった必需品の輸入の障壁をなくし、海外の安価な商品をダイレクトに内需企業や家計に届けることである。そのためにも現在難航しているTPP交渉を速やかに締結すべきである。農家への支援は必要かもしれないが、農業の従事者を輸出関連企業へシフトする政策がメインであるべきだ。経済の高付加価値化、成長戦略である。

それでも足りなければ、低所得者への減税が次のメニューになろう。法人減税は、輸出企業がたっぷり稼ぐのでしばらくお預けである。

10/16 ロイター
http://jp.reuters.com/article/vcJPboj/idJPKCN0I507Q20141016
総裁は、為替市場の動向について、水準と日々の動きにはコメントしないとしながら、円安は「輸出の増加や国際的に展開する企業の収益を改善させ、株価の上昇などプラスの効果がある」と指摘。一方で「輸入コストの上昇や価格転嫁を通じて非製造業の収益や家計の実質所得の押し下げ圧力につながる」と両面あるとの認識を示した。

そのうえで「ファンダメンタルズを反映した円安は、全体として景気にプラス」と従来の見解を繰り返すとともに、為替動向を「引き続き注意深く見ていきたい」と語った。