ROE無視の経営 アマゾン

政府の成長戦略でROE重視の経営を打ち出しているが、それは国民にとって良い方向を導くか。日本の企業社会をカジノ経営に変えて、二極分化が進み、浮き沈みの激しい社会に変えてしまう懸念がある。

一つの価値尺度で社会を縛ろうとするのは平時にはそれでも良いが、非常時には多様性のある価値観をもつ社会の方が変化に対応できる。

日経は、ROE向上を繰り返し唱えるが、もっぱら株主配分を増やすことを言うばかりで肝心の利益率をどう高めるかということについては有効な主張が見られない。そもそもROEが魔法の杖なのかを問うてみたほうが良い。

ROEが万能のように唱えられている株式市場にあって、アマゾンは一人わが道を行く。アマゾンは1999年5月に上場、それ以来一度も配当を行わず、株主から76億ドルの資本を集めたのに対し累計の利益は21.9億ドルに過ぎない。15年間でROEは28.8%、年平均1.9%である。とても上場企業には値しないはずだ。
ところが株価のパフォーマンスは抜群である。99年5月に上場時に15.75ドルで一株を買うと、その後1:2の株式分割が2回、1:3の株式分割が1回あり、今年10月に12株に増えている。10/24のQ3の業績発表後に株価が287ドル(26ドル安)に急落しているいるが、それでも、当初の15.75ドルは、3,444ドルの資産になっている。実に218.66倍である。円ベースでは為替の変動が89.2%であるが、それでも195.0倍である。アマゾンの事業モデルは利益は出さなくてもしっかりキャッシュを獲得するというものである。下記の決算書を参照されたい。このモデルをベースに、電子出版の覇者になることや流通の王者になる希望が託されているのが、株価の圧倒的なパフォーマンスの背景にある。Q4の見通しがさえないことから事業モデルが通用しなくなるという悲観が24日の株価急落の理由であろう。転機を迎えているのか一時的な落ち込みなのかは、神のみぞ知る。後者にかけるなら良い買い時かもしれない。

ROEを唯一の株式指標とするのは、このような図抜けたモデルを発想する邪魔になるだけである。もう少し自由に発想の優劣を競わせたらどうだろうか。日本企業が低ROEなのはそれなりの経済環境、歴史が背景にあり低位に甘んじているのではない。高ROEを目指すなら、それに見合ってセィフティ・ネットを厚くするとか、企業買収の制約を緩めるなどの市場の力を働かせる工夫が必要である。また、低ROEは財務的な安定性を示す。投資側でレバレッジを効かせれば良いだけのことで、劣った経営であるかのように言いふらすのは悪意が感じられる。

Amazon annual report 2013
http://phx.corporate-ir.net/phoenix.zhtml?c=97664&p=irol-reportsAnnual

安倍首相はカジノの開設を成長戦略の目玉とするようだ。ROEなんてもう関係ないのだろう。

10/16 朝日新聞
http://www.asahi.com/articles/ASGBH3RWMGBHUTFK005.html

「カジノ効果」追う日本 安倍首相「成長戦略の目玉」


同国(シンガポール)の政府関係者によると、「カジノ」ではなく、ホテルや商業施設などを併設する「IR」が強調されたのも、国民の反発を意識したものだった。「賭博という言葉がひとり歩きするのを避けるため、使われたのがIRという造語だった」と振り返る。