3/26日経経済教室「日銀新総裁の課題」 翁邦雄・京都大学教授

3/26日経経済教室「日銀新総裁の課題」「量的緩和、出口の展望必要」「デフレ脱却後に難問」「財政状況が物価安定左右」翁邦雄・京都大学教授

ポイント;
・ 量的緩和は出口後に巨額の財政負担が発生
・ 財政制約で適時に金利上げられるか懸念も
・ 財政の持続性確保が長期的物価安定の前提

夫々の立場の論点が集約されてきたようだ。
・ 財政ファイナンス
・ 旧日銀執行部(旧執行部は究極の選択を迫られた時のためにカードを残しておきたかった)
・ 新日銀執行部
・ リフレ派(クルーグマンスティグリッツ
この後は、どのような経路で国債の需給が崩れるかを誰かが論じることになろう。


(以下は、経済教室の要約)

出口のオプションは二つあり、一つは日銀のバランスシートを収縮させる、もう一つは短期金利を上昇させる。現実的なのは後者であるとして、政策コスト(当座預金への付利)を当座預金残高100兆円、目標金利0.25%として2,500億円、その後当座預金残高70兆円、目標金利1%として7,000億円。11年度の日銀の経常利益は5,000億円程度なので日銀は大幅な赤字となる(注:金利収入の増加は考慮されていない)。


金融緩和の目的達成後に日銀は両立できないジレンマに陥る可能性がある。財政の持続可能性が失われた局面で日銀は物価安定の目標を放棄することになろうと予測する。

従ってデフレ脱却までは財政当局と日銀の利害は基本的に一致する。しかしその後は、財政の持続可能性維持のために低金利を望む財政の論理と、物価安定のための金利引き上げを必要とするインフレ目標は正面衝突する。皮肉なことに、インフレ目標が未達で金融緩和に大義名分が立つ間は深刻な対立は生じない。

財政の持続可能性と物価安定維持の綱引きは日銀に不利である。中央銀行は「最後の貸し手」として信用秩序維持にも責任を持ち、財政破綻リスクの高まりによる金融システム不安定化は看過できないからだ。財政の持続可能性と物価安定が衝突した場合、最終的に中央銀行は金融システムを守るため物価安定を捨てる方向にかじを切らざるを得ない。


日銀の量的緩和が財政ファイナンスかどうかというのは観念的な議論で、そこに追い込まれる状況が懸念されるのである。

日銀の量的緩和が財政ファイナンス財政赤字の補填)かどうか議論されてきたが、これは金融緩和時には答えが出ない問題だ。問題の核心は中央銀行が自発的に行う緩和時の国債購入にはなく、インフレ抑制が喫緊の課題になった時点で国債購入を停止できる財政状況かどうかにあるからだ。前述の論文(注:米経済学者のトーマス・サージェントとニール・ウォレスによる「マネタリストの不快な算術」)は、金融緩和時に中央銀行総裁がいくら「財政ファイナンスは絶対にしない」と力説しても、財政の持続可能性が失われた局面では不可避的に前言を撤回せざるを得なくなることを予言したものといえる。

しかしその後(大胆な金融緩和を行った後)、国民への請求書と日銀への真の試練が来る。その背景には、財政と金融政策が分かち難く結びついてしまっている現実がある。