会社は株主を選べるか、西武とサーベラスのTOB をめぐる対立

西武とサーベラスTOB をめぐる対立は、会社は株主を選べるかという古くからの問題を蒸し返している。

英米流で割り切れば、会社は株主のものだから会社が株主を選ぶというのはとんでもない話になる。ところがこれが日本の企業社会になると、企業の社会的責任とか企業の公益的性格とかを持ち出して問題を複雑化している。

話がこじれているのは、西武が危機に瀕したときに資本を出資してくれた恩人であるサーベラスに対し英米流の企業観・株主観をもって彼らの出口戦略に対する対応を行ってこなかったことにある。
サーベラスにとって分かりにくいのは、西武の経営陣がTOBの行使を阻止しようと動いていることである。これは株主間の取引であって、株主の使用人である経営陣が株主間取引に介入することは理解できないだろう。唯一西武経営陣の行為を正当化できるとしたら、実際にそうなっているかは分からないが、西武経営陣の行為は過半数以上の株主の支持を得ていたと想定される場合であろう。水面下では色々動きはあるようだが(例えば、4/3日経「堤義明氏はTOB反対」)、サーベラス側の株主もいるだろうから、TOBでそれをはっきりさせたら良い。
もう一点はっきりしないのは、取締役会の姿が本件ではほとんど見えていないことである。日本ではほとんどが経営者=取締役なので西武のやり方でよいのかもしれないが、英米では、取締役は株主の代理人で、経営者を監視する役割を担うのであるから、本件はまさに取締役会の出番である。サーベラスには企業統治がまともでないと映っていることであろう(だから、取締役選任要求を出している)。

デルの株式非公開化でも、会社提案に対し大株主から二つの計画が提案され、取締役会で検討されている。要は、非公開化に応じる株主からどれだけ高く株を買い取るかということで、単純で判りやすい。
(注)ロイター 3/25/13「デル非公開化にブラックストーンなど対抗案、取締役会が検討」
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE92O00M20130325
関係筋によると、アイカーン氏はデル株の58%を1株15ドルで買い付ける案を提示。
ブラックストーンは1株14.25ドル超を提示している。
デルCEOらは1株13.65ドルでの非公開化を計画している。


日経も普段の理想論は棚に上げて、いざ現実の問題となると歯切れが悪くなる。そして問題は投資家の出口戦略の話なのに、企業価値向上に話がすりかえられている。
4/2日経社説「株主との対話通じて企業価値の向上を」では、次のように述べる。

米投資会社サーベラス西武ホールディングスに株式の公開買い付けを仕掛けた例は、日本企業と外国人株主の緊張関係が高まりつつあることの前ぶれと見ることが出来る。
もちろん、株主の言い分がすべて正しいとは限らない。どんな経営・財務戦略が企業価値を高めるかを、IRや株主総会などの場で、株主と考えることが大切だ。投資家が口うるさくても、それに耳をふさいでしまっては、企業も市場も活力を取り戻すことは出来ない。


サーベラスが西武に出資して現在に至った経緯は次の記事に詳しい。
週刊ダイアモンド「西武vsサーベラス 全交渉秘録〜猛犬はかくして牙を剥いた【前編】」
http://diamond.jp/articles/-/34149

・2005年11月、計1100億円分の株式を引き受け、32.4%の株式を握る筆頭株主となった。

・西武はサーベラスから資本を受け入れる際に、サーベラスの出資比率を拒否権発動が可能となる3分の1未満に抑える代わりに、サーベラス側に経営への関与を一部認める契約を交わしていた。出資比率に応じた役員の派遣や経営情報の提供などが盛り込まれていた。

・だが、株式を公開すると決めた以上、大株主といえども他の株主と平等に扱わねばならない。特に西武には1万4000人の個人株主がいる。東証が定めた上場の手引きにも、「申請前に解消されていることが原則」と明示され、同じく資本提携契約を結んでいた日本政策投資銀行は無条件で解消に応じている。 

・駒を途中まで進めた西武も、もはや引き下がるわけにはいかない。3条件付きの提携契約解消が東証から「上場承認の障害事由に当たる」との見解を得られたとして、10月29日をもって契約の解除をサーベラスに通知。30日、東証に上場の正式申請を行い受理された。

サーベラスは、持ち株比率を株主総会の特別決議で拒否権を行使できる36.4%まで引き上げることを目指すTOB(株式公開買い付け)の計画を公表。さらに6月末の定時株主総会で、元金融庁長官の五味廣文ら3人を取締役候補として推薦する方針を掲げ、数人の追加推薦までちらつかせたのだ。
あれほどまでに抵抗した提携契約の解消も、株の買い増しなどで障害になったため、あっさりと受け入れた。 

・(3月)26日、西武はTOBに反対する意思を表明、メインバンクのみずほCBも「引き続き西武を支援していく」とコメントしており、今後はプロキシーファイト(委任状争奪戦)に発展する可能性が高い。

・「4%程度の買い増しならTOBは成立するだろうし、取締役の提案も通るかもしれない」との見方も強まっており、経営権をめぐる争いは長期化するかもしれない(株主総会は6月末に予定されている)。