EUの混乱 優先順位は何処にあるか クルーグマンの診断

優先順位の誤り

ポール・クルーグマン(PKと略す)のNYT9/12/11(日)のコラム “An Impeccable Disaster”(申し分のない惨事)より。コラムでは、ECB総裁・トルシェの発言「ECBはインフレ阻止の番人として申し分のない仕事をしてきた」を引用し、PKはその通りだが、そのためにユーロが崩壊する危機に追い込まれていると批判している。このコラムでPKはユーロ混乱の原因とECBの採るべき政策を論じている。これまでにPKは米経済への提言を続けてきた。それらには共通するところがあり、ここで彼の現状認識とその処方せんを取りまとめる。次に、それを日本経済に応用したらどうなるかを検討する。

PKは、EUアメリカでの経済論戦が「財政問題化」して、真の問題解決から遠ざかっていることに強い不満を抱いている(日本もそうだが、彼の視野には入っていないようだ)。

EU USA
政府またはECBの認識 債務国の財政規律のゆるみ 財政赤字削減
インフレへの懸念
対応策 緊縮財政を求める 支出削減
金利引き上げ オバマ発言で方向転換か
結果 景気後退 高失業率
信用収縮 社会基盤の劣化
PKの診断 景気低迷による税収落ち込みが財政問題を悪化 失業問題に焦点
景気回復を優先する 米経済に年1兆ドルの穴があいている
PKの処方せん スペイン、イタリア国債の買い支え 雇用創出の財政支出
ECBによる無制限の資金供給 QE3
金利引下げ オバマ提言に賛成も実現性には悲観的

両者に共通してPKが主張するのは、経済が悪い時に財政の建て直しを急ぐとそれが経済収縮を招き、財政問題は更に悪化することである。では、翻ってわが国の状況に当てはめるとPK風の診断と処方せんはどのようになるか。   

日本 コメント
政府の認識 財政再建 今回のEUの失敗をどのように評価するか、教訓とするか
アメリカも方向を変えようとしている
対応 増税 日本だけが財政再建にこだわると、米・欧の通貨安のしわ寄せを食らう
支出削減
結果 長期の経済低迷 経済政策が先読み的ではない
財政の論理が優先
PK風の診断 デフレ 日銀の金融緩和は必要条件だが、基本は需要を高める
PK風処方せん 需要拡大 税制、財政で需要、成長の芽をつぶさない

EUアメリカがどのような方向に政策のかじを切るかを注視しないと、日本だけ世界から取り残され苦しむことになる。大地震前も大地震後も増税一本やりで、政策を代えようとしないのは不可思議。「財政再建なくして成長なし」なんて変なことをいう前に、しっかり現状を見てもらいたい。14日に温家宝は大連でイタリア国債を買い支えると発言。昨日の報道では、主要中央銀行が共同して無制限のドル供給を行う。日本の新聞は、ちょっと遅れているしポイントもずれているようだ。残りのカードは、ECBが金利引下げに動くかである。

2011年9月15日(木)に作成したが、表を作成するのに手間取りUPがおくれた。