2/24/12 日経・経済教室「民主主義の機能不全 下」Steven K. Vogel

2/24/12 経済教室「民主主義の機能不全 下」 Steven K. Vogel カリフォルニア大学 バークレー校 政治学博士
(「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の著者エズラ・ヴォーゲル(Ezra Vogel)を父とする)


「政党は有意な選択肢示せ」「真の協調主義実現を」「経済政策、官僚活用が鍵に」
日本の民主主義の国際的位置付けと政治の失敗に対する具体的な改善提案が示されている。賛否いろいろあろう。考える材料である。


ポイントとして三点が要約されている。
1. 高税率で財政支出多い国は国民福祉優れる
2. 日本は「労働者不在の協調主義」の是正課題
3. 官僚の権威回復と政党間競争促進が不可欠


「今日展開されている経済財政政策論議の大半は、財政支出の拡大と増税は必ず経済を悪化させるとの前提に立っているが、決してそうではない」としてヴォーゲル氏が師事したハロルド・ウィレンスキー氏の成果を紹介している。

富裕な民主国家19カ国を対象に、1950年から現在までの政治、経済政策、経済面の成果を調査したものである。結論は驚くほど明快だとして、広義の国民福祉についてみると、税率が高く財政支出の多い国は、税率が低く財政支出の少ない国を一貫して上回っている。ここでいう国民福祉とは、公平な所得配分、暴力事件の少なさ、高い健康水準、効率的な衛生・安全・環境規則などを意味する。
氏は、世帯貧困率を指標(他の指標でも広く同様な傾向が認められる)に五類型に分けたグループを次の表に掲げる。

政治経済のタイプ 主な国 1990年半ばの世帯貧困率(%) 2000年半ばの世帯貧困率(%)
左派協調主義 スウェーデンノルウェー 5.1 6.2
左派キリスト教系協調主義 オランダ、ベルギー 8.2 7.7
キリスト教系協調主義 イタリア、ドイツ 10.6 10.2
労働者不在の協調主義 日本、フランス、スイス 11.3 11.2
非協調主義 米国、英国、豪州、カナダ 11.3 12.6

彼が日本を「労働者不在の協調主義」に分類したのは、政策立案プロセスに企業だけが組み込まれ、労働者が組み込まれていないからだ。自民党時代の日本政治の特徴は、利益団体が組織的に政策プロセスに組み込まれた協調主義だった。(中略)
このシステムは双方に利益のある妥協を促し、政策の実行を円滑にするものだったが、企業など一部の権益に偏り、労組や一般市民などの権益が十分に反映されなかった。

民主党には、企業と労働者のバランスをとり、政策協議を広く一般に開かれたものにして、こうした日本的協調主義を改める機会があった。(中略)
わずかながら進歩しているが、なお改善の余地は大きい。その一方で民主党は、官僚主導で行われていた利益団体間の調整を抑制し、日本的協調主義の良いところを損なっている。

確かに富裕な民主国家は、効果的な経済政策を必要とするこのときに、政治の失敗という共通の問題を抱えている。だがこの失敗の性質は、国によって大きく異なると考えられる。
日本の場合、筆者はさらに二つの処方せんを提案したい。両者は相矛盾するようにみえるかもしれないが、うまくいけば並行的に機能するはずだ。それは官僚の権威の回復と政党間競争の促進である。(中略)
政治指導者は政策の大まかな方針を示すとともに、官僚には一定範囲の自由裁量の余地を与え、一貫性を持って効率よく政策を実行できるようにすべきである。
その一方で日本は、政策論議に関しては、政党間の真剣な競争から得られるものが大きいと考えられる。民主党は待ち望まれていた政権交代をもたらしたが、この機会を十分に生かしてきたとはいえない。民主党自民党型政治の総点検に力を入れすぎて、政策改善に振り向ける努力が少なすぎる。他方、自民党は議事進行を妨害するような行動に走り、政策面でより良い対案を打ち出す努力をしていない。

日本の政治により健全な競争を促す最も直接的な方法は、現にある日本の経済問題に対して、両党がより良い解決策を提案することである。