8/16/11火 日経 経済教室 小黒一正「限界に近づく日本財政、国民貯蓄減で生産縮小も]について

8/16/11火 日経 経済教室 小黒一正・一橋大学准教授
「限界に近づく日本財政、国民貯蓄減で生産縮小も」

小黒氏の述べるところにいくらか疑問を抱き、その記録としてここに記しておく。

小黒氏は、「まずは日本財政の現状を直視し、高橋是清蔵相が将来の日本の利益を守ろうと命がけで行動したように、本当の意味での政治のリーダーシップを期待したい」と、破局的シナリオを回避するため財政を建て直すことを強く訴えている。その処方せんとして財政・社会保障改革により財政収支を改善することを提案している。

小黒氏の分析ツールは、貯蓄・投資バランス式である。すなわち、国民貯蓄=(投資−固定資本減耗)+経常収支、という関係式(ISバランス式)である。国民貯蓄のトレンドから2013年には国民貯蓄はマイナスに転落するという予測に基づき、成長の基盤となる資本ストックを拡大すると経常収支は赤字に転落し、経常収支の赤字を回避しようとすると資本ストックが食いつぶされ国内の生産が縮小していくというジレンマに陥ると指摘している。

ここで、国民貯蓄とは、民間貯蓄+(税収−政府支出)(すなわち、財政赤字で赤字公債の発行額にほぼ相当する)。

小黒氏の立論についての幾つかの疑問:
1. ISバランス式は相互の項目の因果関係を表すものではなく、事後的に各項目がバランスすることを示すものである。しかし、小黒氏は「国民貯蓄」が推進力となって他の項目を動かすとしているようである。
2. 貯蓄の推移についてはトレンド分析によっているが、やはりその原因を分析しその原因の動向によって今後の貯蓄の動きを予測すべきではないか。
3. 小黒氏の立論では、「事前のマイナス国民貯蓄」が経済のダイナミックスにかかわらず事後的にもそのままになると想定されているようであるが、必ずそうなるとは保証されているとは言い切れない。
4. 1から3を立論のとおりに受け入れたとして、ISバランス式に沿って増税・政府支出減の効果を考えてみる。

増税・政府支出削減により財政赤字は減る。
• 民間がそれを民間貯蓄の取り崩しでまかなった場合、全体の国民貯蓄は変わりないので経常収支赤字転落か資本ストック食いつぶしというジレンマから脱することは出来ない。
• 民間がそれを消費支出から削ってまかなった場合、GDPは減って税収も減ることになる。つまり、増税・減収というありがたくない事態である。仮に減収額が財政赤字の削減額より大きくなれば、全体の国民貯蓄は減ってしまい、ジレンマはさらに深刻になる。
• 現実にはその間のどこかに来るのであろうが、困難な事態には変わりはない。

以上