増税路線と景気建て直し

今週のニューヨークタイムスのポール・クルーグマンのコラム(8/11/11 The Hijacked Crisis)はわが国の経済論争を解説しているのではないかと思ってしまった。

アメリカやヨーロッパでは財政引締め派(serious people:真剣な人々)が主流で、それが定説や社会的通念となっているようである。従来からクルーグマンはそれは誤りで失業問題に全力で取り組まなければならないと主張してきた。ひるがえってわが国の現状を見てみると、増税路線派が圧倒的で、景気建て直し論者は少数派のようである。

クルーグマンは真剣に取り組んでいるように見えることを望んでいる人たちがやっていることは彼等の真剣さを見せびらかせるためにやっていることに過ぎないと喝破している。それは、ワシントンのはやりの娯楽であると、痛烈に批判している。そして、危機が訪れた時、政策エリートは財政赤字を言い訳にして政策課題を雇用から彼等のお気に入りの玩具(財政引締め)に切り替えた。したがって、経済は失血が止まらない、と主張する。

わが国に照らし合わせると、3.11前には菅政権は与謝野氏を迎え入れ増税路線に突き進んだ。3.11後は復興財源として増税路線を強化した。彼等はワシントンの「真剣な人々」の丸写しのように見える。経済情勢がどのように変わろうとも増税だ。

景気建て直し論者は、増税は景気が立ち直ってから実施すべきであると主張する。論者の中には、三次補正は過大でそれをもとに増税するのは景気を殺すとする意見もある。

この中で迷走しているのが民主党政権だ。去り行く宰相の置き土産とはいえ、増税路線を採りながら金持ちに補助金を与えようとしている(エネルギー再生法案)。

増税路線派と景気建て直し論者がデータを用いて経済・財政の将来像について真摯に議論を交わすことを見てみたい。クルーグマンは、次の文で彼のコラムを締めくくっている。
The usual suspects will, of course, denounce such ideas as irresponsible. But you know what’s really irresponsible? Hijacking the debate over a crisis to push for the same things you were advocating before the crisis, and letting the economy continue to bleed.

The usual suspects:いつもの連中。財政引締め派に対するクルーグマン流の「真剣な人々」に加えてのもう一つのやゆする表現。