日経はヘリコプター・マネーに方向転換するのか

いちぬーけたー、って三菱UFJ銀行国債プライマリー・ディーラー(PD)の地位を返上することを決めた(6/8日経)。いよいよ投資家の国債離れが始まった。これからもPD返上が続くだろう。その先にどんなことがあるのか想像したくはない。

国債問題の究極的な解決法として、ヘリコプター・マネーが論じられることがある。6/7日経経済教室「ヘリコプター・マネーの是非」元英金融サービス機構(FSA)長官、アデア・ターナー「日銀の財政資金供給不可避」、「規律ある枠組みで実行を」が掲載された。刺激的な主張が並ぶ。
ポイント:
・公的債務問題解消しないと内需拡大せず
・日銀の保有国債を永久債化し実質消去も
・インフレ率回復なら財政引き締め公約を

少し前まで量的緩和は財政ファイナンスとか公的債務のマネタイゼーションと叫んでいた日経は、とうとう安倍政権の財政スタンスに見切りをつけて過激にもヘリコプター・マネーに急旋回しようとするのだろうか。

ターナー氏は現行の政策は二つの虚構に基づいていると指摘する。
・現在日銀が保有する国債はいずれ全て民間に売却され、再び本物の公的債務になる(返済しなければならなくなる)。
・日本は現在の財政赤字を巨額の財政黒字に転換することで借金を返せばよいから、公的債務を持続可能な水準まで減らすことができる。

そして政府が虚構を実現可能と偽ることによって、家計も企業も将来の厳しい緊縮財政に備えて財布のひもを締めるので、景気刺激策の効果を損ねていると指摘する。安倍首相は前回は一年半後に、今回は二年半後に消費税率を引き上げると宣言しているので、いくら消費増税を延期しても家計や企業の財布のひもは緩まないわけである。

ターナー氏は債務のわなから抜け出すために、二つの虚構を今すぐ捨て、公的債務の恒久的マネタイゼーションを実施することを提案する。とは言っても余りにも公的債務は巨額なので、すぐに全額を実行するのは危険で一部(例えばGDPの10%)に止めることを勧める。また暫進的に将来の赤字を削減するために、例えばコアインフレ率が2%上がったら消費税を1%引き上げ、中期的には財政赤字をゼロにすることを述べる。

ターナー氏の論説では財政赤字のほうが国民は支出を増やすことが出来て得なように思えるかもしれないが、その弊害の予防策も提起していることを見逃してはならない。財政赤字の弊害については別の機会に取り上げよう。

日経はこれまで財政規律を堕落させるとしてヘリコプター・マネーについての論説を正面から取り上げることはなかった。今回の論文掲載は大きな方針変更かと思ったが、6/8経済教室で池尾和人・慶応義塾大学教授の「なし崩し的に実施の恐れ」を掲げ、賛否両論でバランスをとっている。ヘリコプター・マネーの議論が世間で高まってきたことを反映しているのだろう。