成長戦略:市場に迎合する動き

6/8日経「首相、設備投資に減税」「成長戦略で追加策」「市場対応、日銀総裁を信頼」

6/5に発表した第3の矢(成長戦略)が不評であったため、あわてて減税を付け加えたのだろう。このところの市場の急変で耳当たりの良いことを言い出すのは、逆に市場から弱さを見透かされ次々と催促され政権が追い詰められていく悪いサイクルに入ったように見える。


とはいえこれまで株価上昇、円高是正をアベノミクスの成果として誇示してきた安倍政権にはいまさら市場の動きを否定することもできない。

困ったときは原点に戻るのが鉄則である。政権の最大の政策目標はデフレ脱却であった。デフレ脱却に目的を絞り込んで金融緩和と財政出動を成長戦略とリンクさせて三本の矢が揃ってデフレという的に強力に作用するように成長戦略を組み直すことが必要のように思える。

というのも6/5発表の成長戦略は従来型の産業政策を列記しただけの、異次元ともいえる大胆な発想の転換が見られなかった。戦略というより局地戦の戦術のように見える。


大胆な金融緩和で銀行に潤沢な資金を供給し、それが民に流れ出すのが第1の矢の狙いであった。民の資金需要が弱いときには財政支出(第2の矢)で民に資金を流すのは、財政の制約がなければ理に適ったやり方である。現実には財政支出はこれ以上増やせそうにもないから、積み上がった日銀当座預金から資金が民に滴り落ちることを願う希望的観測に望みを託しているのが今の安倍政権ではないだろうか(後記「日銀BSの状況」を参照)。

成長戦略は日銀に積み上がった資金を滴り落ちるのではなく、少なくとも小川ぐらいの流れで民間に流れるような筋道を作るものでなければならない。今回の成長戦略は風が吹けば桶屋が儲かるかもしれないという程度のもので、民間への資金の流れが約束されているものではない。

そんなことは分かっている、その方法が見つからないから苦労しているというのが大多数の意見だろう。

それでも収益性があって将来の生産性向上に資する大きなプロジェクトはあるのではないか。そこへ民間を誘導することができれば、日銀に眠っている資金が動き出す。

ついでながら、15年の名目GDP500兆円、21年の名目GDP600兆円(年3%の成長率)ぐらいの予測値を掲げても大風呂敷とはいわれないだろう。


日銀BSの状況(単位:兆円);
長期国債の増加以上に当座預金が増加している。当座預金から民間へ資金が滴り落ちるのだろうか。せめて当座預金から10兆円(GDPの約2%)が民間に流れ出ればインパクトがある。

時期 13年3月 13年4月 13年5月 3月からの増加
長期国債 91.3 98.1 104.6 13.3
総資産 164.3 174.6 184.2 19.9
当座預金 58.1 66.1 71.6 13.5
マネタリーベース 146.0 155.2 159.1 13.1