安保法制案 内閣の法案提出権はどこまで認められるか

安保法案が、法案が分かりにくいということに加えて、衆院憲法審査会の参考人全員から憲法違反と指摘され、更に混迷している。
この混乱に乗じて私も一石を投じたい。安倍内閣が安保法案を提出したこと自体が憲法の趣旨を逸脱しているのではないか、と。実際、学説によっては内閣に法案の提出権は無いという意見もある。

というのも憲法41条は、「国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である」と規定しているからである。国の進路を大きく変える法案の審議は、後に批判されることの無いよう憲法の原則的な立場を尊重すべきではないか。

三権分離のあり方からは国会に安保委員会を設置し、そこで安保のあり方を国民に分かりやすく議論し、その結果として法改正で対処できるものと憲法改正に委ねるものに仕分けし、国会と国民の判断に委ねるのであろう。ここで内閣は、国会と国民の意思決定を忠実に実行する執行者である。

「私は総理大臣だから正しい」とのたまう安倍首相には馬の耳に念仏であろうけれど。

変な法律特集
http://www.ceres.dti.ne.jp/chu/law/toku_021.htm
憲法第41条
国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。

この条文を見る限り、内閣が法案を提出することはできないカンジがするけど。

しかし、学説の多くはこの「内閣の法案提出権」を肯定します(否定論も有力)。その主な理由として以下の点が挙げられています。
憲法72条で内閣の長である内閣総理大臣に「議案」を国会に提出することが認められているが、この「議案」に法案も含まれると解することができる。
・国会は、内閣の提出した法案を自由に修正・否決することができる。

(法律を作るのは国会という意見に対し)正解と言いたいところですが、現実はそうではありません。
 平成14年度に成立した167件の法律のうち、国会議員が提出した法案によるものは23件にすぎません。残りの144件は、内閣すなわち官僚が提出した法案によるものです。

「第七十二条 内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する」にある議案とは法案ではなく、内閣の職掌として第七十三条五項にかかれた予算案のことであることは明確です。

第七十三条 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
  一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
  二 外交関係を処理すること。
  三 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、
    国会の承認を経ることを必要とする。
  四 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。
  五 予算を作成して国会に提出すること。
  六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。
    但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
  七 大赦、特赦、減刑刑の執行の免除及び復権を決定すること。

憲法は、広義の政府の各機関つまり内閣(行政部)、国会(立法府)、裁判所(司法部)さらに立憲君主国では君主、そして統治される対象である国民の権利の限界を示し、各者の専横を防ぐためにあります。
したがって第七十三条に書かれていること以外を内閣が行なうことは禁止されていると考えることが合理的です。

昭和21年1月16日法律第五号、「内閣法」の中に「第五条 内閣総理大臣は、内閣を代表して内閣提出の法律案、予算その他の議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告する」を滑り込ませることにより、内閣につまり実質的には官僚に法案提出権をあたえました。
これは日本国憲法施行後は明確に違憲です。