金利上昇による金融システムへの影響: 日銀金融システムレポート 

日銀金融システムレポート 2013年4月17日
http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/


日銀から金融システムレポート(以下、「レポート」)が発表された。
金利変動をスティーブ化(短期金利の上昇が少ない)とパラレルシフト(全期間の金利が同じように上昇する)に別けて示すことにより市場の動きを読み取り易いものになっている。
また、資金利益の試算も示され、債券の評価損のかなりの部分が資金利益の改善で吸収されることも明らかになっている。

前回までのレポートはVAR的な最大リスクを示していたのに対し、今回は現実にありそうなシナリオを示したことで日銀のスタンスは大きく変わったといえる。

これで見る限り、金利が3%上昇しても自己資本へのダメージは最大で8.5兆円(債券評価損と資金利益の改善の合算、全銀行ベース)で日銀は自己資本が大きく損なわれるものではないとしている。

今回の金融緩和が財政ファイナンスと見られて金利急上昇が起こると懸念する向きがあるが、そろそろ実際の数値に基づく議論を展開するのが有意義ではないだろうか。

図表Ⅴ-1-10 金利上昇に伴う債券時価の変動(単位:兆円)

- - 1%上昇 2%上昇 3%上昇
国際統一基準行 ティーブ化 -1.7 -2.1 -3.6
パラレルシフト -3.2 -6.2 -8.0
国内基準行 ティーブ化 -1.9 -2.8 -4.2
パラレルシフト -3.4 -6.3 -8.6
合計 ティーブ化 -3.6 -4.9 -7.8
パラレルシフト -6.6 -12.5 -16.6

短中期ゾーンへの投資が多いことを反映して、同ゾーンの上昇幅が大きいパラレルシフト・シナリオで大きくなる(図表V-1-10)。一方、短中期ゾーンの金利上昇幅が小さいスティープ化シナリオでは、債券時価損失は相対的に小さい。


図表Ⅴ-1-12 金利上昇に伴う資金利益の変動(単位:兆円)
基準時点(13 年3 月末)から1 年間で生じる資金利益の額。
前回の試算では示されなかった。

- - ベースライン 1%上昇 2%上昇 3%上昇
国際統一基準行 ティーブ化 3.8 3.9 4.0 4.2
パラレルシフト 3.8 3.9 4.1 4.5
国内基準行 ティーブ化 3.4 3.5 3.6 3.7
パラレルシフト 3.4 3.4 3.4 3.6
合計 ティーブ化 7.2 7.4 7.6 7.9
パラレルシフト 7.2 7.3 7.5 8.1

ベースライン・シナリオでは、海外経済(実質GDP)の成長率が、2012 年の+3%台前半から、先行き2015 年にかけて+4%台半ばへ緩やかに改善すると想定する(図表V-1-1 左図)。株(TOPIX)と国債利回り(10 年物)は、2012年7〜9 月期の水準から横ばいで推移すると仮定する。また、国内経済(名目GDP)の成長率は、2013 年度に前年の+0%台半ばから+1.6%に高まった後、2015年度にかけて+1%台半ばでの推移を続けると想定する(図表V-1-1 右図)。この間、貸出金利は2013 年度以降横ばい圏内で推移するほか、不動産価格は緩やかに下落(年率0.4%)する。


合算(単位:兆円)
同一年内に国債評価損と資金利益の増額が実現したと仮定。

- - 1%上昇 2%上昇 3%上昇
国際統一基準行 ティーブ化 2.2 1.9 0.6
パラレルシフト 0.7 -2.1 -3.5
国内基準行 ティーブ化 1.6 0.8 -0.5
パラレルシフト 0.0 -2.9 -5.0
合計 ティーブ化 3.8 2.7 0.1
パラレルシフト 0.7 -5.0 -8.5