日産による株式買戻しは空想的か

トヨタの種類株発行が関心を集めている。6/13日経にも、大機小機「種類株と経営者の覚悟」記恩、「株主総会2015」「トヨタの新型株、何が焦点?」「経営チェック、疑問の声も」など、他にも「ビジネスToday」「宝飾品のTASAKI」「ファンドから株買戻し」「まず100億円、なお大量に残る」「安定株主確保が課題」が関連する。

トヨタの種類株の問題は、古くからある「会社は株主を選べるか」と言う問題と同根である。

会社法では一定の範囲内で会社が株主を選ぶことは認められているのであるから、トヨタの5%に過ぎない種類株は問題にならないはずなのに、こうも注目を集めるのは自由な資本市場とは相容れぬものがあるからであろう。

トヨタの種類株は株主総会で決着がつくから良いとして、会社が株主を選んだ結果としてその株主にからめとられて影響が深刻な例として、日産を取り上げたい。

日産は2兆円あまりの有利子債務を抱え倒産寸前の経営状態となった1999年3月に、フランスのルノー資本提携を結び、同社の傘下に入り更生を図ることとなった。ルノーは日産株の44%を所有し日産を連結子会社としている。
ルノーはフランス政府が株式の約15%を保有している。各社の株式データは末尾に。

ここで、フランスでは昨年の法改正に伴い、株式を2年以上保有した投資家には2倍の議決権が付与されることになった。ただ1株1議決権という現行制度を維持することも可能で、今回のルノー株主総会では現行制度の維持を求める案が提出された。一方、仏政府は同案が株主総会で採択されることを阻止するため、事前にルノー株の買い増しに動き、出資比率を当初の15%から20%近くまで引き上げていた。結局は、フランス政府の意向が通り、会社提案は否決された。

このことは、フランス政府の意向がこれまでより2倍の力でルノーを通して日産に影響することを意味する。これまで以上にフランス政府の国策が日産の一般株主の利益に優先することになる。この点について、東証は一般株主の立場に立って、日産にフランス政府が過度に影響力を行使しないように指導した形跡はない。また、日産の取締役会が、一般株主の立場からフランス政府の過剰な影響力を遮断する措置を検討したことは報じられていない。

政府公認の「攻めの企業統治指針」では、会社は儲ければそれで良いとするので、国境をまたぐ利益相反には何の指針も示すことができない。ここでは企業統治論の初歩に戻り、一般株主の利益をどう擁護するかを考えるべきであろう。一つのやり方は、フランス政府の影響力を従来通りにするため、ルノーの持株の半分を買い戻すことである。これには、法外な手切れ金を要求されるかもしれないが、長期的な一般株主の利益を尊重する立場から検討に値する論点であろう。

ルノー:6/12終値 €94.67 発行済株式数 295.722百万株 時価総額 €27,996.029百万(@139として3.89兆円)
日産:6/12終値 \1,265 発行済株式数 4,520.715百万株 時価総額 \5,718,704百万