11/4日経・日曜に考える・日本の製造業 沈むのか

11/4日経・日曜に考える・日本の製造業 沈むのか 東京大学教授・藤本隆宏
「しぶとい現場 依然実力」「過剰な悲観論 傾斜禁物」

2000年代前半にモジュール化とすり合せによる製造方法で、注目を集めた藤本氏である。
結果論になるが、藤本氏のすり合せによる日本製造業の強みはコモディティー化する商品には通用しなかった。藤本氏の想定していた以上のデジタル化、グローバル化があったからだ。
藤本氏の「今のテレビ産業のように個別企業の業績悪化はいつの時代にもあった」という認識は、やや危機感が薄いのではないだろうか。
さすがに藤本氏もコモディティー化する商品に比較優位のないことを認めて、すり合せによる製造が生き残る分野を次のように指摘している。

質量のない論理や電子で動くモジュラー型のデジタル製品は、既存の部品の組み合わせで性能が出せる設計調整節約型の製品なので、調整能力に富む日本の現場が競争優位を保つことは難しい。一方で、自動車のように重さ一トンの機械が時速100キロで公共空間を動く人工物は、制約条件が厳しいので設計が複雑化する。この種の調整集約型の製品は日本に設計の比較優位があり、少なくとも開発と初期生産は残せるだろう。

だが最後の砦のような自動車にしても、昨夜の報道番組では、バングラデシュの人力による「リキシャ」(人力車のような人力で人を運ぶ車)に代わって中国製電池を取り付けた10数万円ほどの電動「リキシャ」が急速に普及していると報じていた。こんな潮流を見逃すと、教授の楽観論もまた希望的観測に終わってしまうおそれ無しとしない。

コモディティー化の領域は恐ろしく急速に広がっていくので、すり合わせの製造は分が悪い。日本製造業の生き残りは、グローバル生産に適応する革新的サプライチェーンを構築するか、すり合わせの製造に磨きをかけてコモディティー化されない分野を深化するという方向にあるのだろう。前者は日本人には難しい分野であるかもしれないが、成功すれば世界のマーケットシェアを握れるという大成功がある。