権力の行使を自覚する野田首相

最近の野田氏の動きは権力の行使という観点から興味深いものである。それは、細野氏の代表選断念と尖閣諸島国有化に現れている。最高権力者として自己の意図を実現させる効果的な権力の行使が行われているからだ。これを野田氏が一皮むけたと評するのか、したたかになった野田氏の次の標的は何か、興味深いところである。ともかく、前任の鳩山氏や菅氏にはなかった政治家としての新たな資質の発現である。

これが良いか悪いかは、老子風にいうと、権力の行使は利器(鋭利な刃物)を用いることである。正しい方向に使われれば国民の利益となるが、濫用すれば自らに跳ね返り国益を損なうことになろう。

1. 細野氏代表選断念の真相
産経ニュースが伝えるところでは、細野氏擁立の動きは6月ごろに始まり、9月6日にはテレビで出馬要請の受け入れが放映された。ところが、「福島のことはどうしても頭から離れませんでした。この仕事を投げ出すことはできません…」と7日午前、細野氏は野田佳彦首相に不出馬を告げた。この間の経緯は、9/8/12「民主代表選:幻の細野氏擁立劇、決断先送りで失った信頼」に詳しい。

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120908/stt12090801230002-n1.htm


細野氏の動きは次の様であった。

細野氏の気持ちは揺れに揺れた。それでも出馬への意欲が消えることはなく、5日には周囲に「何とか若手らが総選挙で勝てる環境を作ってあげたい」と漏らした。6日にはテレビカメラの前で出馬要請を受けた。
 その直後からだった。永田町に“解散風”が吹いた。
 「ひょっとしたら7日に解散があるかもしれない」
 自民党谷垣禎一総裁は6日の演説でこの情報に言及した。発信源は首相周辺だった。民主党の支持率は低いものの、自民党が総裁選で対立を深め、国政進出を目指す大阪維新の会の選挙態勢も整っていない今は「解散のチャンス」(首相周辺)でもあった。
 細野陣営は7日午後の出馬会見の段取りまでつけていたが、この「脅し」は効果てきめんだった。細野氏の出馬阻止のために首相は解散しかねないとみて、慌てて細野氏と距離を置こうとした若手議員もいた。
幻に終わった細野氏擁立劇。支持議員は怒りをぶちまける。
 「こんな優柔不断で福島の復興ができるのか」


2. 尖閣諸島購入では石原知事に圧勝
これも産経ニュースからの引用。
9/5/12「尖閣国有化へ合意 政府、20億5千万円で購入」
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120905/plc12090511130011-n1.htm

政府が尖閣諸島沖縄県石垣市)の国有化をめぐり、約20億5千万円で購入することで地権者と合意したことが5日、分かった。長浜博行官房副長官が3日に地権者側と協議し、売買契約締結に関して合意した。協議では、東京都の石原慎太郎知事が国有化容認の条件として提案した漁船待避施設の整備などは当面行わないことも確認しており、石原氏が反発を強めるのは避けられない。
 国有化の対象となるのは尖閣諸島の5つの島のうち魚釣島と北小島、南小島の3島で、現在は国が賃借契約を結んでいる。
 国に先立ち石原氏は4月に尖閣の購入方針を表明し、これまでに14億円を超える寄付金を集めた。政府はこれを上回る20億5千万円の購入額を地権者側に打診し、詰めの協議に入っていた。
 政府は月内に関係閣僚で3島の国有化方針を確認した上で、購入経費として今年度予算の予備費を充てることを閣議決定する方針。地権者と売買に関する契約書も交わす。

政府が本気で買い取ろうとすれば、是非は別として、石原知事がどれだけ歯ぎしりしても勝てない。政府には地権者の情報が手元にあって、どこを攻めれば地権者が落ちるのかを知り尽くしている。石原知事があっさり白旗を掲げたのも、とても勝ち目のない争いを起こす愚を知っていたからだ。ところで、購入価格の20億5千万円は、賃借料25百万円からすると、国債利回り並みで正当化できる価格の上限であろう。

石原知事は、寄付者の要望に応えて彼らに寄付金を返還し、その情報を公開したらどうなのか。それによって、寄付者の意気を尊重するとともに、国と石原氏への信頼感を測ることができる。