電力改革は見掛け倒し

7/14日経 経済産業省・電力システム改革専門委員会(委員長・伊藤元重東大教授)「改革の基本方針」

電力会社が一体で手がけている発電と送電の事業を分ける「発送電分離」では2つの方式を示し、導入に反対してきた電力業界も容認に転じた。電力の小売りは家庭向けを含めて全面自由化し、料金規制も撤廃して消費者の選択肢を広げる。

紙面には、「小売り全面自由化」、「電力競争促進の要」、「電力購入先多様に」などの見出しがおどるが、肝心の安定供給、電力料抑制という一番基本的なことが語られていない。「小売り全面自由化」、「電力競争促進の要」が魔法の杖となって、全ての問題を解決できるとでも思っているのだろうか。

「電力購入先多様に」で需要者が電源を選べるというなら、再生エネルギー買い取りによる補助をやめて裸の原価で太陽光発電電力を勝負させたらどうかと思う。それでこそ、需要者の本音があらわになろう。

基本方針といいながら、結局は、現行体制を維持しそこに屋上屋を架するがごとく自由化の装いを凝らすのだから「電力システム改革は国家百年の計」(枝野幸男経産相)にはなりそうもない。

何が問題か。
1. 既存電力会社の存続
既存電力会社を存続させたままで、どうして競争的な市場が成立するのだろうか。鯨一頭にメダカ千匹が束になっても勝てないよね。
結局、政府は東電を税金と需要者の電力料という負担で支えている限りは、既存電力会社には手を付けられない。国民負担で競争市場促進と正反対のことをやっている限り、競争的電力市場は生まれない。
2. 原発の扱い
原発を既存電力会社に保有させたままでは、公平な競争市場は生まれない。原発コストは、これまでの試算で明らかなように電源中でコストは最低である。これを既得権益として電力会社に持たせ続ければ、新規参入業者には大きなハンディとなる。電力会社にしても、目先利益を出せるだろうが事故の際には企業存続を脅かす悪魔となる。民間企業でリスク負担するには限度がある。一度、原発は国営として、そこから生じた電力を卸売市場に出せば、卸売市場は活性化され、新規事業者、たとえば電力商社、などが生まれてこよう。また、新規参入業者は、原発という特別に差別化された電源を持たなくなった既存電力会社と同じ土俵で戦うことができる。たとえば、火力なら、新規参入業者はシェールガスによる最新鋭発電設備を投入し、既存電力会社の非効率な火力発電と競争することが可能になろう。
政府は、原子力への依存割合を早急に決めなければならない。これが決まらないと、7/10日経・一目均衡「電力投資のパラドックス」のようにいつまでも電力投資が起きてこない。そもそも、原子力への依存割合は、リスク評価・リスク制御を科学的に行った上で、客観的に判断すべきもので、国民に人気投票みたいに選ばせるものではない。与党がポピュリズム政党である限りは空しい願いなのかもしれないが。
3. 供給責任はどこへ行った
地域独占」「供給責任」が自由化とともに無くなれば、どこかが供給責任を負わねばならない。日経によれば、「機能分離」の場合、「系統運用機関」に送配電網の管理を委託するとあり、供給責任者はあいまいである。「法的分離」は、持ち株会社の下で分社化するので、結局電力会社グループの中で供給責任を負うことになる。これでは、今となんら変わらないことになろう。

その他に「広域融通」などが提案されているが、あまり国民に負荷をかけないようにお願いしたいものだ。