パナソニックとシャープ

パナソニックとシャープ

共にパネルの自社生産が裏目に出て多額の損失を計上する。これは予測できなかったことか。確かに、当時は垂直統合のモデルケースとして生産工程をブラックボックス化し、サムスンなどに絶対的な差をつける決め手になると高く評価されていた。

2007年に発刊された藤本隆宏氏「ものづくり経営学、副題 製造業を超える生産思想」光文社新書を読み返す。光ディスクを例にして、技術的に優位にあるはずの日本企業が圧倒的な競争力を築くどころか韓国、中国の追撃に敗れ去っていたことが論じられている。曰く「無敵の光ディスク産業がなぜ市場撤退を繰り返すのか」と。

第2部ものづくり経営学各論「第5章 光ディスク産業−日本企業の新たな勝ちパターン構築に向けて」では藤本氏は次のようにコメントする。

光ディスク・ドライブは、技術的には日本のオハコであったが、海外への生産拠点の移動が急速に進んだ。しかも、技術的には無敵であったはずの日本企業は、低賃金の海外生産拠点に出たにもかかわらず、グローバルに他を圧する競争力を築けていない。なぜこのようなことが起こったのだろうか。(中略)
このケースでは、「日本企業はすり合わせ製品では常に安定的に強い」というような単純な図式は通用しない。製品のアーキテクチャも、組織のものづくり能力も、急速に変化していくからである。

すでに当時からテレビパネルも光ディスクと同じ運命をたどることは予見できなかったわけではない。垂直統合を行ったのは、過去の成功体験からであったようだ。VTRが世界の市場を席巻したのは、まさに垂直統合を行ったおかげであった。おそらく、その成功体験からテレビパネルも同じように垂直統合で市場を握れると判断したのだろう。ただディジタル家電のモジュラー化が当時の経営者の予想を超える速さで広まり、結局組み立て工賃の差のコスト勝負に戦場が移ってしまったことが今日の大赤字を招くこととなった。

シャープに至っては、赤字のため開発費が十分でなくなったのであろう、iPADのパネルの納期に間に合わないという失態を招いた。さらに定昇見送りという土壇場に追い込まれている。

経営者にとって過去の成功体験にとらわれることなく新しい感性の持ち主を大胆に起用することが求められる時代となっている。