ユーロの安定化

最近の欧米の論調にはヒトラーやドイツの権力という言葉が目に付く。12/11ポール・クルーグマン(PK)“Depression and Democracy”では、ヨーロッパに起こりつつある政治的変質(民主主義から独裁主義への動き)を憂いている。

PKは政治の最前線でも経済と同じように「それほど悪くはない」罠に陥らないようにしなければならないと注意を促している。ヨーロッパの不吉な政治情勢も,ヒトラーが登場しているのではないからといって見過ごしてはいけないと述べている。

今回のEU首脳会議で間近な金融危機の脅威は押さえ込まれたものの、それを補う成長戦略がない過度の財政緊縮は全ヨーロッパ的景気後退がさらにあり得そうになってきている。そして、多くの欧州人は、彼らが高圧的なドイツの権力行使と見て取ったものに激しい怒りを抱いている。欧州史に親しんでいるものなら誰しも敵対視の再燃を見て震え上がらない者はいない。

オーストリアフィンランドでは、排他的な政党の勢力の伸張が著しい。そして中欧ハンガリーでは独裁志向のある政権が永久政権の樹立のために手を打っている。この不況が続く限り、ハンガリーで起きたことがヨーロッパに広く伝播するであろう。ヨーロッパの指導者はこの流れを食い止めないと、彼らがよって立つところの価値観(民主主義)を失いかねなくなる。

最後に、ユーロの解体は彼らの心配事のもっとも小さなものになるかもしれないと締めくくる。

先に引用したエコノミストの記事でも、キャメロン氏がブリュッセルに向かう時ある保守党議員がネヴィル・チェンバレン首相がアドルフ・ヒトラーとの外交交渉を終えミュンヘンから手ぶらで帰国したことを引き合いに出したことを伝えている。

欧州の人々のナチス・ドイツヒトラーに対する警戒感は今なお根深い。このことからドイツの煮え切らない行動を見てみると、ドイツはうかつには動けないという慎重な姿勢が読み取れる。

財政統合や共同債発行は、結局ドイツが主導する形で進まざるを得ない。すなわち、ドイツがユーロ加入国の金融、財政を取り仕切ることになる。ドイツの財政負担は膨大なものになるが、それとは別に、ドイツが不用意に財政統合や共同債発行に踏み切ればユーロ加盟国からの激しい拒絶反応を引き起こすのではないだろうか。おばさんの仮面をかぶったヒトラーと。そうなれば、ドイツはユーロ圏内で孤立してしまう。他の国からどうしてもドイツに立ち上がってほしい、やむを得ずドイツはそちらの方向に舵を切ったのだという大義名分がほしいのではないだろうか。ドイツはその機を待っていると観察する。その機がこなければ、ユーロ解体も辞さないと腹を括っているのかもしれない。

日経は、ユーロ安定に前のめりになりすぎているように見える。ここは一歩引き下がって、是非は別として、解体もあり得るシナリオであるとして読者に注意を喚起するのが良いように思える。野田政権は、そのときになって場当たりに財政への負荷を考えず第5次補正予算を組むのではなく今から危機シナリオを用意しておくことだ。

蛇足:ウオール・ストーリト紙(12/13現在)による読者への質問
http://online.wsj.com/community/groups/europes-question-day-695/topics/
1. 10年後ユーロは存続しているか
存続する 43.6%(460票)、存続しない 56.4%(596票)
2. 英国は今後10年間のうちにEUから離脱するか。
離脱する 60.8%(115票)、離脱しない 39.2%(74票)

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追記 12/13 19:33
12/13日経夕刊「十字路」「独のカラオケマイク」みずほ総合研究所・高田創氏より抜粋。

しかし、ユーロ創設10年でドイツが結局は経済面のヘゲモニーを握る状況に対し、欧州の人々には複雑な思いがあるだろう。第2次世界大戦時の「第三帝国」のような状況が経済面で生じることへの抵抗感が存在するなか、ドイツが進んで支援しヘゲモニー獲得を志向する姿勢を示すほど、周辺国に脅威に映る。

それでもドイツが支援しない限り欧州が正常化できないことを、誰もが納得せざるをえない状況になることが不可欠だ。相当な政治的プロセスと時間をかけた環境整備がないと、ドイツは全面支援しにくいだろう。今日の欧州の状況はそう簡単にカラオケマイクを取りにいけないなか、マイクをとるための「儀式」を行い始めた状況だ。