東電社長インタビュー「他社から電力購入増やす」「投資押さえ経営効率化」

12/8(木)日経 東電社長インタビュー「他社から電力購入増やす」「投資押さえ経営効率化」

(設備投資関連、要旨)
他社からの電力購入を拡大することで「設備投資を抑制したい」との方針を明らかにした。従来の発電から送配電までの「自前主義」を転換し、経営の効率化を進める。(中略)11月に公表した計画に盛り込んだ「他社電源の活用」を進め、「(東電の)外からも安価な電力をどんどん取り入れ、自社電源との組み合わせを最適化する」と強調した。(中略)2010年度までの10年間で年平均2,000億円程度の発電設備を抑制し、「過剰な設備をもたないようにしたい」と述べた。

経営の効率化を進めるというのはお題目で、資金が苦しくなるので転換を余儀なくされるというのが本音のところである。いよいよ自前の発送電一貫体制に風穴が開いてくるのである。電力を社外から調達する事業形態に対し、経産省や日経はいよいよ発送電分離がおのずと進んでいると歓迎しているのだろうか。

資金不足が続くのであるから、この流れはいずれ発電設備の売却が現実のものとなり、東電は配送電に特化する会社へと転換することになる。ここで、発電設備、特に火力発電の売却はスケール・メリット(規模の経済)を損なうという問題がある。燃料の購入、研究開発、維持管理などは個々の発電所が行っていては高くつく。これらの機能は、一ヶ所に集約してスケール・メリットを失わないようにする工夫が必要となろう。これと個々の発電所の安価な運営コスト(後述)を組み合わせることにより発電コストを削減することが可能になる。

東電が多くを外部電力に依存するようになると、効率的な電力買取制度を立ち上げることが必要になり、同時に個々の発電所に運営コストを安くする動機を与えなければならない。これを例で示してみよう。

予備電源として東電4発電所、外部2発電所があるとする。
東電の発電所:A50(発電所Aでは発電コストは50発生することを意味する。以下、同様)、B60、C80、D90
外部の発電所:X70、Y75
発電所の発電能力はそれぞれ1単位とする。
電力の販売価格は100/単位で一定とする。X とYは送電料を含む買い取り手数料を東電に3支払う。XとYの手取りは、それぞれ97である。
電力の買取と配電は、東電が行う。

平時には、発電所と需要家は相対取引で電力供給契約を結び、需給はバランスしている。例えば、翌日が猛暑日であると予測され、電力需要が4単位増加する見込みになったとしよう。予備電源である6の発電所の内4を稼動させる必要がある。

東電は自社のA、B、C、Dをフル稼働させて供給する。それが東電の利益を最大にするからである。電力需要が5単位になったときXかYから1単位を購入する。6単位になったときYかXから1単位を購入する。東電にはXとYのどちらを選ぶかという判断基準がないことに注意されたい。

だが、これは経済全体からすると無駄の多い制度である。また、XやYは需要が安定しないので長期的には事業を存続できないだろう。結果、効率の悪いCやDが残り、日本経済の効率性が落ちる。

6発電所が最も効率的に稼動するためには、電力市場を創設しそこで需要と供給を付け合せるメカニズムが必要になる。需要が4単位の場合には、A、B、X、Yが稼動し、需要が増えるにつれC、Dが稼動することになる。効率の悪いCとDはバックアップ用として残され、技術革新が進めば廃棄されることになる。

経済全体では、市場創設・運営のコストが新規にかかるが国全体の発電所資源を有効利用するという効率化のメリットがはるかに大きいだろう。

東電の資金不足が、「窮すれば通ず」のことわざどおり、日本の電力市場を作り変えるインパクトを持っているかもしれないのに、12/9日経は「機構が資本注入し、東電を実質国有化する」と報じている。資本注入は兆単位とも伝わっている。政府の見取り図は何なのだろうか。

12/10日経では「東電、リストラ実行計画発表」の記事がある。設備売却に東電は慎重であるとされているが、それはやせ我慢だ。もうすぐすれば、そうせざるを得なくなる。

規模の経済を損なわず設備売却を進めるのには、原子力発電設備を一括して国に売却するのがベストである。これによるメリットは、(1)多額の売却収入が得られる、(2)原発というリスクプレミアムにより割引評価されていた東電の企業価値が跳ね上がり、市場からの資金調達が容易になる、(3)原発への設備投資がなくなり、資金繰りが緩和される。
もちろんこのためには、原発のリスクを国全体で負担しきれるのかという問題のほかに、国策民営という枠組みを変えなければならないし、地域独占・供給責任という戦後レジームを捨て去ることが必要になろう。何しろ、今の電力行政の枠組みは戦後の廃墟から抜け出すためのGDP(GNP)10兆円以下の時代の遺物であるのだから。

「東電リストラ計画」では、家庭向けスマートメーターを本格導入するとされるが、ただばら撒くだけでは効果は薄い。配電業者にメリットになる仕組みを構築するのが必要である。