11/21(月)日経経済教室「震災直後の超過需要への対応」

11/21(月)日経経済教室「震災直後の超過需要への対応」「値上げより数量調整 優先」
 阿部修人氏、森口千晶氏

本論文のポイントは次のとおりである。
• 震災直後も同一店舗の商品価格は上昇せず
• 価格ではなく数量割り当ての形で需給調整
• ネット競売の個人出品では大幅価格上昇も

本論文の一部を次のように引用し、電力市場への応用を考えてみたい。

古典的仮説の一つに、オーカンが提唱した「顧客市場仮説」がある。それによると、市場は競売(オークション)市場と顧客(カスタマー)市場に大別される。前者では魚市場のように買い手の競争入札により瞬時に需給を反映した価格が決まるのに対し、後者ではスーパーのように売り手が価格を設定し買い手は購入するか否かを選ぶ。

 店舗と消費者が長期的取引関係にある顧客市場では、店舗は顧客の評判を重視するので顧客の不興を買うようなアンフェアな価格変更をしない。天変地異による需要増を理由とした値上げはその最たる例といえよう。実際、筆者が震災直後に地元スーパーで聞き取り調査をしたところ、店長は顧客に「便乗値上げ」と思われることに対して強い懸念を表明していた。

 そこで筆者は筑波大学の水野貴之氏とともに、東京大学の渡辺努氏らの先行研究にのっとり、インターネットオークション最大手の「ヤフー!オークション」のデータ(オークファン提供)を用いて、「顧客市場仮説」の検証を試みた。実際ミネラル水をみると、競売市場では震災後に出品数も落札数も急増し、個別商品でみた落札価格は最大で7倍、平均では4割上昇した。これは表の指標(2)が示す4.2%よりはるかに大きな値だ。

 また、「ヤフー!オークション」では事前に出品者が「即決」価格(買い手がその価格で入札すれば商品を即座に落札できる価格)を設定することもできる。即決価格付きの競売は、売り手が価格を設定し買い手が選ぶという顧客市場の要素を併せ持つ。この仮説が正しければ、繰り返し出品し買い手からの評判を気にする売り手(=ストア)はそうでない売り手(=個人)に比べて即決価格を容易に上げないであろう。分析によると、個人の出品者が設定するミネラル水の即決価格は、ストアと比べ、震災後にずっと大きな上昇率を示した。

 これらの結果は、小売店が値上げしなかった背景には顧客関係への配慮があったことを示唆する。しかし社会厚生の観点からは、必ずしも数量調整が価格調整より公正で望ましいメカニズムであるとはいえない。数量割り当ては例えば、価格調整のように緊急性のない買い占めを抑制する効果がなく、また通常価格で購入できた者と全く入手できなかった者の間に格差を生みだす。今後の研究では、価格調整と数量調整の功罪を実証的に明らかにしていきたい。


全需要者と全供給者がすべての需要と供給を付け合せる電力市場があると仮定して、家庭と小口ユーザーに電力を配電する(新たに創立される)配電会社の役割を示してみよう。電力市場が機能する前提として、現在の電力供給契約は「使用権契約」(決められた容量で最後の瞬間まで好きなだけ使える契約)となっているが、確定数量契約(決められた期間に決められた電力量を供給する契約)を導入しなければならない。

配電会社は電力市場では需要者として、時に供給者としての役割を担う。配電会社は平時には、契約している発電会社からの供給と家庭などのユーザーへの配電がバランスしているので電力市場から電力を調達する必要はない。有事の際、例えば災害により契約していた発電会社が電力を供給できなくなったときには、電力市場からその穴を埋めるために調達する必要が生じる。また、発電会社が無事であっても配電網が被災して配電できなくなったときには余剰電力が発生し、その余剰電力を電力市場で売りに出す。

「顧客市場仮説」でいえば、配電会社は電力市場という「競売市場」で日々需給の変動にさらされている。対顧客では、「顧客市場」で配電会社が設定した価格を家庭などのユーザーは購入するか否かを選ぶ(配電市場が競争的でなければならない理由である)。配電会社は「競売市場」の特性を勘案してユーザーに対し複数の価格メニューを提供することが出来る。競売市場に直結した「変動型料金」、固定期間の「固定料金」などなどである。当然後者のほうがリスクプレミアムの分だけ料金は高くなる。住宅ローンに変動型や固定型があるのと同じことである。銀行が最後の資金調節にコール市場を利用するのと同じように、電力市場をイメージすることが出来よう。コール市場では参加者が市場金利を参照しつつある時は資金の出し手になり、また別の時には取り手になるのと同じように、電力市場でも参加者は価格を見ながらそれぞれの限界費用機会費用を参照して出し手になったり取り手になったり有利なほうを選択する。

競売市場がどのように動くかは、経済教室の次の記事が参考になろう。

インターネットオークション最大手の「ヤフー!オークション」のデータ(オークファン提供)を用いて、「顧客市場仮説」の検証を試みた。実際ミネラル水をみると、競売市場では震災後に出品数も落札数も急増し、個別商品でみた落札価格は最大で7倍、平均では4割上昇した。これは表の指標(2)が示す4.2%よりはるかに大きな値だ。


「落札数も急増し」たのは、投機目的でミネラル水を大量に備蓄する投機家は考えられないので価格の魅力にひきつけられて様々なルートを通して供給が増えたからである。需給逼迫時に競売市場が有効であることが分かる。他方、「落札価格は最大で7倍、平均では4割上昇した」。これを見て政治家はキャップ(上限価格)が必要だと勘違いしてはならない。それをやると加州の大停電のような惨事になってしまう。すべてを市場に委ねるという胆力が必要である。今次の震災による計画停電は3月14日に始まり4月いっぱいで終了した(ただ、3月14日以降も停電しない区域があったり、途中で計画停電の停止を行った時もあった)。競売市場があれば、次々と効率の悪い(限界費用の高い)発電機が(採算が取れるので)稼動し、3月14日以降も必要なユーザーに電力を供給しもっと早く計画停電を終わらせたはずである。つまり、電力料金の高騰は短期間に収束し、年平均でならせばそれほど大きな値上がりとはなっていなかったであろう。

この経済教室の記事で興味深いのは、自明のことと思われていた価格調整が数量調整に優越するというポイントを実証的に明らかにしていきたい、と今後の課題にしていることである。そのような実証検証がなかったことは驚きだが、その結果を知りたいものである。