日経 経済教室11/4/11 次世代電力網の課題

日経 経済教室11/4/11 次世代電力網の課題 依田高典氏

スマートグリッド(SG)の普及に関する最近の動向を論じるものである。ここではSGの普及は、需要家(一般家庭)の節電意識、省エネ意識、環境意識に依存するものとされ、供給側はその結果として恩恵をこうむるものとされる。その先には太陽光発電プラグインハイブリッド車による蓄電を組み合わせて、エネルギーの地産地消が可能になるとされている。

興味深い論考であるが、SGで金儲けをしたいという供給側の動機に訴える根拠が薄弱のようである。SGで大もうけできるなら、供給側が自分からSGを各家庭に設置するだろう。家庭はSGや蓄電池などの高価な機器を購入しなくて済むので大助かりである。こんなことが可能なのか。

日経「やさしい経済」で連載された八田達夫氏「電力自由化を考える」が参考になろう。八田氏は、事前と事後の電力市場(部分的なものでなく全需要と全供給を付け合せる場)を創設し、価格の導きにより最適なエネルギーの配分が出来るとされている。この電力市場で大口ユーザーは需要者として独立して参加できるが、一般家庭についてはその需要を束ねる配電会社が参加する。配電会社は、家庭の細かい需要データを持たないときは供給責任を果たすためどうしても多めに電力を仕入れる。これがSGによってきめ細かい需要データを手に入れることが出来れば、電力の仕入れを減らすことが出来る。すなわち、減らした分が配電会社の利益となる。日々の積み重ねなので膨大な金額となろう。配電会社は誰に頼まれなくても競ってSGを自らのコストで設置することになろう。それをやらない配電会社は淘汰される。これは発送電の分離という大掛かりなことをやらなくても、現行の制度を手直しすることで実施可能である。電力市場の創設と電力会社の家庭配電部門の切り出しである。それをやりながら、原発の運営主体、地域独占、供給責任などの難しい問題にけりをつけ最終形として(賛否色々あろうけれど)発送電分離へと進むのが無理のない方向である。

海外展開もこのようなシステムとして売り込むのがよさそうである。SGというハードにこだわると、中国や韓国のメーカーと血みどろのコスト競争に巻き込まれるだろう。ビジネスモデルの構想力が試される。

少し前に、悪代官のように埋蔵電力を正直に報告せよと命じたトップがいた。それは政策としてもどの程度のものか。見えざる手によって、人々が金儲けをしながら自然に政策目標を達成するのが本当の政策だ。