3.11後の電力会社の有り方

東日本大震災以後の上場電力会社のあり方についての一考察である。

3.11以前
電力会社は地域独占の見返りとして原発事業に参入した。原子力損害賠償法(原賠法)は原発事業者に無過失無限責任を課した。原発事業者は、恐らく暗黙の国家補償を信じてかこの条件を受け入れた(原賠法16条、17条は被害者の救済を目的としており、事業者の救済は前提とされていない)。このことは原発賠償支援法案(支援法案)で、東電を破綻させないとしていることから推測される。自民党が東電の有限責任を唱えているのも同じ文脈からであろう。
3.11後
リスクは生じないとした共同幻想はやはりまぼろしであった。電力会社は普通の民間会社として正常なリスク・リターンの原則に立ち戻らなければならない。1.6兆円の元手(純資産)で損失が10兆円を越えるかもしれない博打を打ってはいけないのである。

これからの上場電力会社の役割は次のようなものであろう。
1. 公益事業会社として社会に安定的に電力を供給する。
2. 上場会社として投資家に市場平均のリターンを配当する。
3. 技術革新能力を磨き上げる。

具体的には次の通りとなろう。
1. 原発事業者としてのリスクの移転
(1) 原発事業者としての地位を国に返上する、または、
(2) 原子力保険の創設によるリスクの移転
なお、リスクの移転はリスクを付回すだけで、国全体のリスク総量は変わらない。国の原子力政策の中で、社会に許容できるリスクを検討しなければならない。電力会社にとって良い事は必ずしも国家にとって良い事ではない。この矛盾は国家のエネルギー政策の中で解消されるべきものである。

2. 経営への政治介入の排除
原発事業者の地位返上は、経営への政治介入の排除に通じる。このことは、地域独占という特権的地位を放棄することも意味する。普通の民間会社として歩むのであれば、避けて通ることの出来ない道である。

3. 電力会社の価値創造の根源
民間会社として技術革新能力を維持・向上させる体制を構築することである。火力発電の効率性向上、送電ロスの削減等やるべきことは多い。原子力にしても、社会的にリスクを受け入れることが容認されたとして、大失敗の事例と失敗しなかった事例の両者を手にしたのであるから世界に先駆ける技術を生み出すチャンスである。ここで東電に限定すると、支援法案は東電をゾンビ化させることになるので、中・長期的に技術革新能力を減じることになろう。大きく構想すれば、東電は再生東電として出直すのが潜在力を発揮させることになろう。地域独占という特権的地位に安易に寄りかかることなく普通の民間会社として地道に技術革新能力を磨き上げるのが今後のあり方である。



原子力損害賠償法(原賠法)
3条1項本文  無過失無限賠償責任
但し書 異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じた損害は免責とする。

1. 原発事業者が有責の場合
7条
(1) 地震、噴火、津波などは政府保障契約で1,200億円を限度の補填
(2) 残りは民間保険でカバーする建前(現実には行われていない)
16条
事業者が損害賠償をするのに必要な援助を行う(今回の支援案、本来事業者を救済することは想定されていない)

2. 原発事業者が無責の場合
17条
政府は被害者救助と被害拡大防止のために必要な措置を行う(ここでも、事業者を救済することは想定されていない)

16条の趣旨:日経経済教室7/12/11 福井秀夫
事業者が無限責任により賠償能力の限度まで負担することを前提に、残る損害賠償を国が援助するのが16条の趣旨だ。法は東電の存続や責任の縮減を求めていない。
福井氏は、原発事業者にリスクに応じた保険料を支払わせ、民間の賠償保険だけですべての損害を償えるような枠組みになっていないと指摘している。つまり、7条(2)は空文化している。