相対価格と一般物価水準 原油価格は一般物価水準に効いて来るのか

原油価格の下落について報じられる時、日本国内では黒田日銀総裁の発言を引用して、物価水準も原油安に引きずられて低下する。よって、追加的金融緩和が必要になったとする。ところがアメリカの景気動向が報じられる時には、原油安は消費者の購買力をかさ上げするので景気拡大効果があるとされる。

これでは読者は迷ってしまう。日本とアメリカでは、原油安の効果の出方が違うというのである。これは報道機関が当局の発表を吟味せずに垂れ流していることから生じる混乱だ。

今日の大機小機、与次郎「原油価格と物価」はこの点を説明する。「日本銀行が依拠するリフレ経済学は、これを(一部の物価が下がれば、もろもろの物価の平均である消費者物価は上がりにくくなること)きっぱりと否定するのである」。「原油価格が下がればガソリン価格や電力料金が下がるから、そこで余裕のできた消費者や企業は、他のモノやサービスへの支出を増やす。したがって、すべてのモノの価格の平均である一般物価水準が下がることはない」。そして与次郎氏は、「フリードマンの論理がルーズなレトリックに過ぎないことは、誰でもすぐに気付くのではないか」と批判し、「似非ロジック」とこき下ろす。ところが最後に、「物価の動向を決めるのはどちらか。私たちはまたとない実験を目のあたりにしている」と締めくくる。

与次郎氏にしても、マネタリズムの論理を全面的に排斥しているのではなく、迷いも見られる。それは、アメリカではマネタリズムの考え方が優勢だからであろう。
問題は、黒田総裁がリフレ経済学から逸脱するような発言をすることである。黒田総裁が本物のリフレ経済派であれば、原油価格を引き合いに出すことはなかった。自らの主張の根本を捨てでも、追加緩和するという思惑が先行していると見られてもしょうがない。リフレ経済の教祖が根本の教義を捨てたことの意味は、これから冷酒のように効いて来るのではないだろうか。