思い切った投資減税は経済を上向かせられるのか

自民党政権公約で大幅な法人減税(投資減税と実効税率引き下げ)を掲げた。これは安倍政権の成長戦略が市場の評価を得られなかったことから付け焼刃的に追加されたものである。

6/20ブルームバーグ
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MOOAW76S972I01.html
6月20日ブルームバーグ):自民党20日、7月の参院選(4日告示、21日投開票見通し)で掲げる公約を発表した。政府が閣議決定した成長戦略に基づき、「間断なく政策を打ち続け、日本経済を揺るぎない成長軌道」に乗せる方針を示し、法人負担軽減策について「思い切った投資減税を行い、法人税の大胆な引き下げを実行」と訴えている。

法人減税の直接的な効果は、財政赤字の拡大、他方利益を得るのは投資家、経営者、株価上昇によって証券取引活発化の恩恵をこうむる証券会社などである。メディアも広告主の財界の意向を汲み取って提灯記事を連発する。それでも法人減税によって投資が活発になり、経済がうまく回れば結果オーライだけれども、そうはうまく行くのか。


安倍首相の成長思想には、企業が投資をすれば雇用もそれに応じて増えて、出荷が増え、賃金も上がるという高度成長期のモデルがそのまま反映されている。例えば、1952年に当時のGMの会長チャールズ・ウィルソンは議会証言で「GMにとって良いことはアメリカにとっても良いことだ(What is good for GM is good for the country)」と語ったことがGMトヨタに置き換えてそのまま今の時代にも通用すると思っているかのようだ。


では本当に半世紀前の企業観でこれからの時代を乗り越えられるのだろうか。直感的に見ても、大企業(高収益会社というほうが適切)の雇用吸収力は格段に落ちている。規模が高収益の決め手にはならないように見える。

アメリカでは、GMはかって非農業雇用者数の1%(100万人以上)を雇用していた。当時のGM以上の収益力を誇る現在のアップルは、わずか0.05%(7.2万人)に過ぎない。参考までグーグルは3.2万人、フェイスブックに至っては4,619人しかいない。
国内ではパナソニックの連結従業員は33.0万人(国内の従業員数は不明だが、パナソニックグループ労働組合連合会の組合員総数は、75,884名、平成24年3月31日現在)に対し、ソフトバンクのそれは2.2万人(ほとんどが国内と思われる)である(ウィキペディアより)。
それでは人の代わりに設備を大幅に増やして高収益を稼ぎ出しているのか。総資産を比較すると、むしろ総資産額は横ばいか減少している。
アメリカの会社

社名 総資産 (10億ドル)
GM 149.4(うち現預金19.1)
アップル 176.0(うち現預金10.7)
グーグル 93.7(うち現預金14.7)
フェイスブック 15.1(うち現預金2.3)

アップルには余剰資金が137.1 10億ドルあるとされている。そうだとすると、営業資産は38.9 10億ドルということになる。
ブルームバーグの記事Apple Jumps After Saying in Discussions to Return Cash
http://www.bloomberg.com/news/2013-02-07/apple-investors-rally-behind-calls-to-return-more-cash.html

日本の会社

社名 総資産 (10億円)
パナソニック 5,397(うち現預金496)
ソフトバンク 6,524(うち現預金1,364)

このように人は減らす、投資も横ばいか減らすのが現在の高収益企業なのである。どうも安倍政権の成長戦略は古い成長モデルで今の企業を動かそうとしているところに無理があるようだ。そもそもオリジナルのアベノミクスには減税で投資を増やすというアイデアはなかった。市場が動揺するたびに色んな意見を取り入れるうちにアベノミックスになってしまったのでないだろうか。

ところで規模拡大を追わない経済について、6/20NYTはクルーグマン教授のコラム
Profits Without Production を掲載している。
http://www.nytimes.com/2013/06/21/opinion/krugman-profits-without-production.html?partner=rssnyt&emc=rss&_r=0
21世紀になってアメリカ経済は根本的に変わったと教授は主張する。企業の収益の源泉は、GMとアップルの例を引用して、製造ではなく市場における特別の地位(Monopoly Rents)からもたらされるようになった。したがって、アップルは大して投資をしなくても膨大な利益を計上できるし、投資を行おうとする動機も生まれず、巨額の現金を抱え込む。このことが賃金と投資を抑制することになる。21世紀になって利益の資本と労働への分配は、それまでの数十年間は安定的であったのが、急激に資本へとシフトしていく。経済は変わっていく、そして変わっていく経済は政策に影響を及ぼす、と語る。政策への含意は今後のコラムで展開する予定のようだ。