経営者が考える人件費と総理が考える賃金の違い

企業経営者が人件費を節約して利益を極大化しようとするのは当然のことである。だから、財界は残業代をゼロにする法案を実現するよう政府に働きかける。

問題は、財界と緊密な関係にある政権側が財界の考えに影響されて人件費を減らすことを良いことだと考えることである。個別企業で人件費を減らすのは結構だ。だが国全体の経済運営を担う政府が企業に同調して賃金を減らすことに力を入れるのは、国全体の雇用者報酬を減らして、経済を低迷させてしまう。

国のなすべきことは、個々の企業で減った人件費以上の賃金を生み出す仕事を作り出すことである。それによって国民全体の所得は増える。そのために第3の矢があるのだろうが、2年半近く経ってもはっきりとしたものは出てこない。歴代の内閣でも成長戦略といいながら、何も出てこなかった。そうではなくて、第3の矢は初めから幻で、景気づけのために出てきたおまじないに過ぎないと割り切らなければならない。

先進国において特定の事業を先導役に経済を牽引させることは出来ない。むしろ、需要を大切にして、増えていく需要の中に事業機会を見出せるようにすることが成長へつながる。アマゾンやアップルは国の後押しがあったのではなく、消費者のニーズを先取りして、それに見事に応えたので巨大企業に成長した。

現政権の供給側に甘いスタンスは、需要を増やすという観点からは評価されない。