財政の崖 No deal is better than a bad deal.

財政の崖(fiscal cliff)
11/8日経「オバマ氏再選」「財政の崖綱渡り」「市場、回避を疑問視」
通説では財政の崖を回避しないとアメリカの景気後退は避けられず、世界的にも景気の足を引っ張るといわれる。

そうでもないと言うのがクルーグマン教授である。11/8NYTのコラム「Let’s Not Make a Deal」で、結論を先に紹介すると次のように主張する。

So stand your ground, Mr. President, and don’t give in to threats. No deal is better than a bad deal.

大統領殿、自分の意志を貫きなさい、そして脅しには屈してはいけない。悪い取引をするくらいなら妥協しないほうがましだ。

Nobody wants to see that happen. Yet it may happen all the same, and Mr. Obama has to be willing to let it happen if necessary.

それ(財政の崖による景気後退)を見たい人は誰もいない。しかし、それでもそれは起きるかもしれないしオバマ氏はもし必要なら進んでそれを起こさせなければならない。


その理由を次のように述べる。

It’s worth pointing out that the fiscal cliff isn’t really a cliff. It’s not like the debt-ceiling confrontation, where terrible things might well have happened right away if the deadline had been missed. This time, nothing very bad will happen to the economy if agreement isn’t reached until a few weeks or even a few months into 2013. So there’s time to bargain.
More important, however, is the point that a stalemate would hurt Republican backers, corporate donors in particular, every bit as much as it hurt the rest of the country. As the risk of severe economic damage grew, Republicans would face intense pressure to cut a deal after all.

財政の崖とは本当は崖ではないということは指摘するに値する。それは債務上限問題のようなものとは性質が違う。債務上限問題はもし期日までに合意されなければ、恐ろしいことが直ちに起こっていたかもしれないのだ。今回は、合意に数週間やさらに数ヶ月達しなくても、とても悪いことが起きるものではない。それ故、交渉する余裕があるのだ。

もっと重要なことは、交渉の行き詰りは共和党の支持層、特に法人の寄付者が痛手を負うことである。厳しい経済の痛手が広まるにつれ、共和党は交渉を切り上げる強い圧力に直面することになろう。



教授は多少経済に影響があっても、再選された勢いを使って政治を正しい方向にこの際に立て直せという。

Most of all, standing up to hostage-taking is the right thing to do for the health of America’s political system.

とりわけ、人質をとるやり方に対して立ち向かうのは、アメリカの政治制度の健全性のために正しいことなのだ。


同じようなことを11/9日経FT「オバマ氏再選、大胆な政策を」「共和切り崩す好機」は次のように主張している。

米国の選挙民はプラグマチックな思考傾向を示した。それは茶会のものでもリベラル派のものでもない。上院選では最も極端な共和党候補は排除された。オバマ氏は共和党の宗教的な仲間からプラグマチックな共和党議員たちを切り離す道を見つけなければならない。
大統領は再び力を手に入れた。それをこうした大胆な政策転換に使うことができるかどうかが一大問題だ。共和党の熱病を克服できる可能性は依然低いが、これまでに比べると高まっている。

FTもここまで共和党をこき下ろすとは見上げたものだ。

このような論調があれば、実際に財政の崖は来るかもしれないし、そのときにうろたえるものではない。備えは必要だが、日経のように何が何でも回避せよと一方的に煽り立てるだけでは、経済紙の報道としてどうなのかな。