菅氏のパラドックス

6月2日、代議士会で菅氏は退任するとは言わなかった。「一定のめどがついた段階で若い世代に責任を引き継いでもらいたい」と発言した。この時、権限は譲らないのかと思ったが、鳩氏がこう補った。「第2次補正の早期編成にめどを付けていただきたい。その暁には身をお捨て願いたいと申し上げた」と。これにより各メディアは、「首相が退陣を表明」と報じた。しかしながら、これは鳩氏の希望的観測であって、既に菅氏究極の「奇兵隊」的反撃が始動していた。創業者兼オーナーの鳩氏の思いを逆手にした捨て身技。毎日の記事では、岡田克也幹事長、安住淳国対委員長枝野幸男官房長官野田佳彦財務相仙谷由人官房副長官らが黒幕であったようだ。だが、その人の地位、立場からの禁じ手はあるのである。一国の宰相にして許されない手段を用いてはならない。支持率低迷の菅氏なればこそ、選挙を避けたい議員心理につけ込んだ汚い手口だ。

百人一首 歌81 後徳大寺左大臣(ごとくだいじのさだいじん) 藤原実定(ふじわらのさねさだ)
ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば ただ有明の 月ぞ残れる

鳩とサギ 鳴きつる方をながむれば ただ被災地の 月ぞ残れる


毎日新聞より、
首相が退陣に言及した代議士会でのあいさつは、1日夜に東京・六本木のホテルに集まった8人が原案を作成した。岡田克也幹事長、安住淳国対委員長枝野幸男官房長官野田佳彦財務相仙谷由人官房副長官らが、午後10時から1時間半かけて知恵を絞った。
詳細は、以下の通り。


http://mainichi.jp/select/wadai/news/20110603k0000m010136000c.html
首相退陣表明:分裂回避へ「確認」あいまい
菅直人首相(左)と鳩山由紀夫前首相 鳩山由紀夫前首相「ここに署名してほしい」

 菅直人首相「同じ党内のことなので信用してほしい。(正午からの代議士会で)自分の言葉で話す」

 事態収拾の決め手となった首相と鳩山氏の会談。首相が退陣を表明した代議士会の直前、2日午前11時16分から40分間。2人は側近を交えながら3項目の「確認事項」について話し合った。

 退陣を条件にした造反回避というシナリオに見えた。しかし、「担保」を求める鳩山氏に首相は事実上のゼロ回答。首相が夜の記者会見で退陣時期が年明けになる可能性を示唆し、鳩山氏が強く反発するなど、早くも大きなズレが生じている。

 こうした事態になった原因は「確認事項」の作成過程にある。文案は北沢俊美防衛相と平野博文官房長官が練り上げた。北沢氏は民主党政権発足時から同一閣僚を続けている唯一の存在で、首相は政変の節目で相談するなど絶大な信頼を寄せる。平野氏は鳩山グループの幹部で、鳩山氏の側近中の側近だ。

 両氏は文言をあえてあいまいにした。日付も署名欄もない。具体的な中身も「第2次補正予算の早期編成のめどをつけること」などとぼかした。これは首相と鳩山氏の会談がこじれないようにする知恵だった。

 文案を提示された鳩山氏は「辞任という文言を入れてほしい」と注文したが、平野氏は「退陣の条件についての文書なんだから言わずもがなです」と応じなかった。

 平野氏が水面下で動くきっかけは、1日午後8時から国会近くのホテルで開いた鳩山グループの会合だ。別のホテルで小沢一郎元代表が71人を集め、内閣不信任決議案の賛成に向けた「決起会合」を開いており、連動する動きのはずだった。

 しかし、「賛成しか選択肢はない」と訴える鳩山氏に対し、囲んだ22人の大半が「野党が出した不信任に大義はない」などと表明。大谷信盛氏は「賛成する時は議員を辞める時だ」とまで言い、中山義活経済産業政務官が「否決すべきだ」と直言すると、鳩山氏は目をそらした。

 3時間に及んだ会合で、鳩山氏に同調したのは、松野頼久川内博史両氏だけだ。

 すでに不信任案への賛成を明言し、引くに引けない鳩山氏は窮地に陥る。北沢氏と連絡を取る平野氏にとって鳩山氏を救う環境整備が大きな課題であり、首相にとって都合の良い「あいまいさ」に乗るしかなかった。

 「代議士会での首相と鳩山氏の発言に注目してほしい」

 首相と鳩山氏の会談に同席後、平野氏は小沢グループの幹部に告げた。それは即座に同グループ内に伝えられ、多くの議員が不信任案騒動の終結を感じ取ったが、ほころびが見えるまでそれほど時間はかからなかった。

 平野博文官房長官北沢俊美防衛相の調整と並行し、民主党執行部も動いた。小沢一郎元代表鳩山由紀夫前首相が相次いで不信任案への賛成を表明し、執行部も実は動揺していたからだ。

 首相が退陣に言及した代議士会でのあいさつは、1日夜に東京・六本木のホテルに集まった8人が原案を作成した。岡田克也幹事長、安住淳国対委員長枝野幸男官房長官野田佳彦財務相仙谷由人官房副長官らが、午後10時から1時間半かけて知恵を絞った。出席者の一人は「退陣を表明しないと造反を抑えられないと思った。『めどが立ったら辞任する』ということは、首相が前から考えていたことだ」と説明。政府と党の共通認識の下で練り上げられた。

 これに先立ち、安住氏は午後8時から出演したBS報道番組で、2日正午から通常は10分間の代議士会を1時間に拡大することを表明。記者団には「若手がわだかまりを(不信任案が採決される)衆院本会議に持って行かないようにしたい」と説明したが、落としどころを見据えた舞台設定でもあった。

 2日朝、執行部は代議士会の会場をいつもの衆院14控室から衆院別館講堂に変更する。同講堂は1年前の6月2日に鳩山氏が首相退陣を表明した場所。所属議員への「メッセージ」と受け取れる。これが平野、北沢両氏の水面下の動きと連動、事態収拾に向けた流れができあがった。

 小沢グループは2日朝も49人がホテルに集まるなどして結束を確認したが、最後にはしごをはずされた形となった。「しらけた。ふに落ちない。でも、不信任案反対を呼びかけた代議士会での鳩山先生の言葉は重い」とグループの一人は漏らした。

 小沢元代表は2日夜、東京・六本木のカラオケ店でグループ議員ら約40人と会合を持った。小沢元代表は一曲も歌わなかったが、あいさつはした。「皆さんの結束が首相の退陣に結びついた。ありがとう」

毎日新聞 2011年6月3日 2時30分(最終更新 6月3日 2時47分)

民主党菅首相と鳩山前首相の「確認事項」

内閣不信任案に反対票を投じる鳩山由紀夫前首相(右)、左奥は菅直人首相=国会内で2011年6月2日午後3時17分、手塚耕一郎撮影 菅直人首相と鳩山由紀夫前首相が2日交わした「確認事項」の文書は次の通り。

 一、民主党を壊さないこと

 二、自民党政権に逆戻りさせないこと

 三、東日本大震災の復興並びに被災者の救済に責任を持つこと

 (1)復興基本法案の成立

 (2)11年度第2次補正予算の早期編成のめどをつけること

毎日新聞 2011年6月2日 23時17分(最終更新 6月3日 0時18分)