社会保障と税の一体改革の協議は合意すべきではない

いよいよ15日の最終決着に向け与野党の協議が大詰めを迎えている。
6/14日経では、次の三点について整理している。
1. 「最低保障年金の創設」「後期高齢者医療制度の廃止」について
 民主党は「社会保障制度改革推進会議」を創設し、同会議に検討を委ねる。
 自民党は「現行制度」が基本として、「(年金や医療の公約が)取り下げられていない」と批判している。
2. 低所得層への年金加算について
 民主党は月額6,000円を加算する政府案の代わりに、公明党が主張する定率加算する案を検討すると明言した。自民党は「大きな哲学の違いだ」として、年金加算には慎重である。「給付付き税額控除」や「軽減税率」の導入議論は先送りすることになった。
3. 子育て支援
 民主党は、政府案の「総合子供園」の設置を撤回して、自公が求めた「認定子供園の拡充」を認める案を提示した。


自民党のいう「大きな哲学の違いだ」というのは、社会保障制度の財源について自民党は保険料、民主党は税金という根本に違いがあることを指す。この違いは所得分配という国民の大きな利害にかかわるものであり、各政党は総選挙の際の政策理念として国民に選択を委ねるべきものであり、与野党協議という限られた関係者で決めるものではないことを指摘したい。

自民党の考えでは、社会保険制度を維持し財源が不足する分を税で補填する。民主党案では、年金も医療も保険料を払わなくても税を財源として支給するので、社会保障費に占める税金の割合が増えていき、社会保険料を納める国民とそうでない国民との間の不公平感が広がり結局は社会保険制度が崩壊することにつながる。民主党の長期的な狙いは、社会保障の税金化であると観られるのである。税金化が進めば、結局は壮大な所得の再分配が行われることになる。社会保障と税の一体改革という聞こえのよい言葉に釣られると、後でとんでもない付けを払わされる。

自民党案でも、現行の社会保障費の支払いを存続させる限りは税の補填が増えていき、民主党の方向と結果はあまり違わないことになるかもしれない。社会保険制度を維持・存続させるのであれば、保険料と給付の抜本的な見直しが必要になる。

医療については、後期高齢者医療制度を強化するか、現状のままとするならば現役世代への保険料を引き上げることになろう。また、保険対象の医療を絞り込むことが必要となろう。おそらく後期高齢者医療制度が出てきた理由は、当初の保険設計でここまで高齢化が進むことが想定されなかったためであろう。長寿は目出度いことであるが、それに伴うコストは支払わなければならない。それが嫌なら、長寿をあきらめるしかない。

年金については、少子化が進むので現状のままでは持続不能である。少子化に対応した制度設計が必要であろう。たとえば、子供をたくさん儲けた親の年金は多くするとかのメリハリを付けるのである。子供のいない方は、子育ての費用が節約できたのでその分を自助的な年金に充当するなどが考えられる。国民感情的には受け入れにくいのかもしれないが、知恵を出して制度を考えていくことである。民主党案のように税金化するというのであれば、現在ある積立金(100兆円強)をどうするかという問題も出てくる。

日経を含むマスコミに苦言を呈したいのは、ともかく増税ありきで、基本哲学から一貫したストーリーが語られなかったことだ。これがないと、原発と同じで二者択一的な話になってしまう。ギリシア化するというのは単なるブラフのようにしか聞こえなかった。現に政府案でも債務削減の力強い提言を見ることができない。