日経 大機小機「正しい円高対応」誠児

11/17/11(木)日経 大機小機「正しい円高対応」誠児
誠児氏から以下に要約した円高対応策の提言があった。同意できる部分もあるが、同意できない部分もある。

政府・日銀による大規模な市場介入にもかかわらず1ドル=70円台後半の円高が続いているため、企業収益や生産活動への悪影響を懸念する声が強まっている。

内外のインフレ率格差を前提とすると、やや長い目でみれば、今後も円高圧力は持続する可能性が高い。これに対し、対症療法的に市場介入や追加金融緩和を繰り返しても、円高抑止効果はごく一時的なものにとどまるだろう。

むしろ企業の海外展開を積極的に支援する一方、国内では産業構造の変革を促すことで新しい雇用機会創出に努めること、これこそが日本経済の長期的発展につながる正しい円高対策である。


今の為替相場をどう見るかがポイントである。公益財団法人国際通貨研究所(IIMA)のHP(http://www.iima.or.jp/research_gaibu.html)によれば、購買力平価(PPP:Purchasing Power Parity)で測定した円ドル相場は、2011年8月現在では次のとおりである。

2011.8 基準年 ユーロドル
為替相場 77.09 - 1.434
消費者物価PPP 131.00 1973 1.232
企業物価PPP 100.87 1973 1.210
輸出物価PPP 62.00 1990 1.304


輸出物価PPPが著しい円高になっていることは一目瞭然だ。これをどのように解するかによって現在の相場水準の見方がわかれる。輸出物価PPPを見ると今でも円高ではないので輸出企業は依然抵抗力があると解されるかもしれない。企業物価PPPから見れば明らかに採算割れで、現在は円高局面である。輸出物価PPPが輸出産業の生産性向上で達成できていたなら為替が90円ほどの時には膨大な利益を計上していてはずだがそのようなことはなかった。輸出産業界からの悲鳴をそのとおりに受け止めれば、採算割れになっている可能性が高い。なぜそうなっているのかは、輸出市場での韓国や中国との激烈な競争が輸出価格を企業物価よりも引き下げている可能性が高い。

円ドルのゆがみは、ユーロドルの各PPPを見るといっそう鮮明である。円ドルの輸出物価PPPは価格競争に巻き込まれて意図しないレベルまで円高が進んでいると見てよさそうである。

これ以上の円高は輸出産業の空洞化を招き、雇用の打撃になるとの声が上がる。しかし政策的配慮を除いて為替の観点だけでいうと、円高の元凶は強力な輸出競争力を持つ自動車産業である。そして自動車産業が国外に事業を展開するのは避けられない。

政策的対応は(机上では)難しくない。自動車産業を残すならば輸入を拡大し、資本収支の赤字を増やすことである。TPP参加にかかわりなく、農産物を含むすべての輸入関税や貿易障壁を廃止し円高メリットが消費者に届き易い経済構造にする。貿易立国である以上外貨の黒字が累積するのは避けられないので、これを国外への投資へ誘導する政策が必要となろう。

自動車産業を残すというバイアスがない場合には、自動車産業の海外展開を見守るしかない。その場合大きな雇用の喪失があるが、労働力の移動がスムースに行われるような規制の緩和が必要になる。自動車の穴を埋める新産業は、誠児氏はヘルス・ケアや農水産業に期待しているが、きめ打ちする必要はないだろう。民間の活力が安くなった円と労働コストで新たな産業を創出するであろう。政策としてもうひとつ重要なのは、事業が海外に出て行っても日本企業としての誇りをもてる日本ブランドに磨きをかけることである。日本企業であることを止めてしまえば資本市場や税収まで大きな打撃を受ける。誠児氏の「企業の海外展開を積極的に支援」するのはどのような意味があるのか不明である。

11/16日経によれば、民主党税制調査会エコカー減税延長、自動車取得税の消費税引き上げ時の廃止を検討しているようである。民主党政権自動車産業を守るスタンスである。輸入を拡大し、資本収支の赤字を増やす胆力は民主党にはあるのか。これがなければ、いつまでも円高の流れは続く。