憲法改正:自衛隊の明記の是非

安倍首相は憲法自衛隊を明記することにこだわっている。その狙いは何なのか。

2/7日経経済教室・憲法改正の論点を探る、下「自衛隊の明記、法的に困難」井上武史・九州大学准教授

井上氏は憲法改正を巡る自民党案を、「自衛隊明記案」と「9条2項削除案」に分けて説明する。ここでは、「自衛隊明記案」について。

国民に周知されている自衛隊をそのまま書き込むのは分かりやすいと指摘するが、現存する特定組織である自衛隊を、次の理由で憲法に書き込むのは難しいと述べる。
(1)自衛隊の存在を憲法に書き込めば、自衛隊衆議院参議院最高裁会計検査院などと並ぶ憲法上の組織と位置づけられる。しかも国民投票で承認された自衛隊は、憲法制定時に国民投票を経ていない既存の国家機関より高い正当性を有することになる。それは自衛隊を単に合憲化する目標との関係では明らかに過剰だ。
(2)自衛隊憲法上の組織となれば、法律で設置されるに過ぎない防衛省は組織法上、自衛隊の下位機関になる。
(3)自衛隊憲法に書くのであれば、その固有の任務・権限や他の国家機関との関係も併せて記述せねばならないが、それは法的には9条2項に上書きする意味を持つ。

安倍首相が自衛隊明記にこだわっているのは、井上氏の指摘する法制上の問題点こそが安倍首相の狙いであるように見える。「9条2項削除案」では、国民の支持を得られないから自衛隊を合憲化するという一般受けしそうなところから始めていく。ゴールを明らかにしないのが、安倍流である。統帥権につながりそうな怖い話である。

石破氏が「9条2項削除案」を唱えて安倍氏の「自衛隊明記案」に異議を唱えているのは、進め方の違いであって、ゴールは同じである。直線的に行なうか、回り道して国民投票を確実にして次に進めるかである。石破氏の主張は安倍氏との違いを打ちだす事と右派勢力の支持を集めるためである。

北陸豪雪で自衛隊が支援に出るのを安倍首相は頼もしく思っているだろう。だがその感覚は錯綜している。北からミサイルが飛んでくると、北への圧力を唱える。その実、もっとミサイルを飛ばせと思っているように思える。

2017年05月20日 弁護士ドットコム
https://www.bengo4.com/internet/n_6103/
安倍首相は、「多くの憲法学者や政党の中には、自衛隊違憲とする議論が今なお存在しています。『自衛隊は、違憲かもしれないけれども、何かあれば、命を張って守ってくれ』というのは、あまりにも無責任です」として、自衛隊の明文化を主張した。

感覚的に訴えるだけで、道理を尽くして説得しようとしないのは安倍流である。戦前の靖国神社に祭るということを憲法に置き換えたようなものである。