日経・経済教室 中銀の金融緩和競争㊦ 「円高阻止へ日銀は行動を」

10/16日経・経済教室 中銀の金融緩和競争㊦ 「円高阻止へ日銀は行動を」「資金供給、なお不十分」「購入、外債より日本国債を」本田祐三・関西大学教授
ポイント:
・ 日本の金融当局の対応遅れで一段の円高
・ リスクが高い日銀の外債購入は回避すべき
国債購入は満期分散化など政策設計柔軟に

面白い図があった。日米のベースマネー比と円ドル相場の関係を示すもので、縦軸に円ドル相場(下が円高、上が円安)、横軸に(日本のベースマネー/米国のベースマネー、左が0.4から右が1.1)。プロットされた点は右上から左下へ推移している。

簡単に表に要約する。

- 時期 ベースマネー 円ドル相場
QE以前 08年9月以前 1.1程 100円から120円
QE1後 08年11月以降 0.6から0.5 90円から100円
QE2後 10年8月以降 0.5から0.4 80円前後

この推移から、本田教授は日銀はもっと金融緩和をして円高を阻止すべきと説いている。
表だけを見ると合点しそうだが、実は注意すべき点がある。
ここで、ベースマネー比はGDPの規模を考慮しない単純な比率であって、日銀のバランスシートがそれに耐えられるかという事は考慮されていない。

足元の円ドルレートを80円として、次の表を掲げる。

日本 円 日本 ドル 米国 ドル
GDP 兆 475 5.90 14.0
マネーベース 兆 124 1.55 2.6
基準日 9/30/12 10/3/12
対GDP比 % 26.2 18.5

日銀が米国並みにベースマネーを1兆ドル増やすと、残高は2.55兆ドルとなり、対GDP比は43.2%となる。これは未踏の領域となるのではないか。公的債務の累積がどこかで限界に達するように、日銀のバランスシートもどこかで臨界点に達することを危惧する。

ベースマネー比の推移から読み取れるのは、米国の金融緩和度合いが日本に急接近しているということで、それはこれまでが円安状態であったことが今正常化しつつあるということを示しているように思われる。
2012年7月末時点の企業物価PPPは97.48円、輸出物価PPPは61.83円で(国際通貨研究所の公表データ)、一段の円高の余地があるようにも見える。かといって、日銀にのみ負荷をかけるのは慎重になるべきだろう。


もう一点は、日銀による外債購入であるが、本田教授はリスク負担の面で日銀は購入すべきではないと主張している。そもそも外債購入論はどのようなスキームを念頭においているのだろうか。金融緩和の文脈からすれば、国内投資家の保有外債を購入するということだろうが、国内投資家が受け取った外貨を円に替えれば為替への影響はニュートラルで、リスク負担の面では為替リスクが日銀に移っただけということになる。米政府から米国債を購入するのであれば、アメリカの金融緩和に貢献して結果として為替に影響(円高!)するということか。それでは、裏の意図が逆目になる。どちらにしても、仲介銀行が為替と外債の仲介手数料を稼げるのは間違いない。