浜岡原子力発電所 政府と中部電力 思惑のズレ

政府の要請と中電の判断

1. 中電の判断

開示本文(以下、本文と略す):

今回の要請の受け入れにより、お客さま、立地地域の皆さま、株主の皆さまをはじめ多くの皆さまに多大な影響を及ぼすことが懸念されます。これらの方々に過度な負担、不利益が生じないよう、経済産業大臣に対し、別紙1のとおり確認をいたしました。

別紙1:

お客さま、株主、立地地域等関係者に多大な影響を及ぼすことが懸念される。これらの方々に過度な負担、不利益が生じないよう、当社は事業運営全般にわたり最大限努力するが、国としても十分な配慮、支援をお願いしたい。

本文では、「経済産業大臣に対し、別紙1のとおり確認をいたしました」とあるので、経産大臣は中電の要望を受け入れたと判断できる。



本文では、「当社は、内閣総理大臣からの要請を重く受け止めております」とあり、その受け止め方は別紙1で説明されている。

別紙1では「総理大臣からの今回の要請は事実上国の指示・命令と同義であり」としている。


中電の主張は、内閣総理大臣の要請は行政指導としては受け入れがたいが「国の指示・命令」であれば、それに従うという構成となっている。「経産大臣の確認」は中電の主張を認めた証文であるという位置付けである。

「国の指示・命令」を受け入れることにより、今後、大震災があって浜岡に大事故が生じても中電としては国の命令に従ったのであり青天井の損害賠償を負担するものではありませんと主張しているように読める。

2. 政府の立場

政府としては、素性のはっきりとしない「要請」(下に紹介する記事では、「行政指導」とされている)が中電の独自の判断により受け入れられたことは、今後の業者指導に大きな裁量権を得たことになる。「政府の指示・命令」というのは中電の独自の解釈であり、ここは戦略的あいまいさで事を乗り切ろうとしたのではないだろうか。万一にもその解釈に決着をつける場面が来たとしても、実際に手形を落とすのは恐らく次の自民党内閣であるという希望的な割り切りもあったのだろう。

このような文脈から思うには、読売新聞の次の記事は、このニュースの受け手を、行政指導しかないように誤解させるような意図が感ぜられる。何しろ、このニュースのソースは登場人物5人のうちの誰か一人であるからである。

http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20110510-OYT1T00140.htm?from=top

読売オンライン(2011年5月10日03時03分読売新聞)
官邸、極秘協議1か月…法的根拠なく行政指導

電力
 6日午後4時半過ぎ、菅首相首相官邸の執務室に、海江田経済産業相原発担当の細野豪志首相補佐官、枝野官房長官、仙谷官房副長官らを呼んだ。(中略)

弁護士出身の枝野氏らが、その場で原子炉等規制法などの関連法や政令のページをたぐった。「やはり条文をどう読んでも、法的に停止を指示することは出来ない。行政指導で、中部電力に自主的な協力を求めるしかない」。異論を唱える者はいなかった。

中部電力浜岡原子力発電所の運転停止要請への対応について」

http://www.nikkei.com/markets/ir/irftp/data/tdnr1/tdnetg3/20110509/6uqbif/140120110507013511.pdf

平成23年5月9日
各 位
上場会社名 中部電力株式会社
代表者 代表取締役社長 水野 明久
(コード番号 9502)
問合せ先責任者
経営戦略本部設備総合計画グループ長 平岩 芳朗
(TEL 052−951−8211)

浜岡原子力発電所の運転停止要請への対応について

平成23年5月6日に、内閣総理大臣浜岡原子力発電所のすべての号機について運転停
止の要請を表明するとともに、当社は、同日、経済産業大臣より要請書を受領いたしました。

原子力は、安全の確保を最優先に、立地地域の皆さまをはじめ広く社会の皆さまの信頼を
得て成り立つものであります。当社は、内閣総理大臣からの要請を重く受け止めております。
今回の要請は社会の原子力発電に対する不安の高まりを踏まえたものと捉えており、原子力
発電所保有する事業者として、皆さまの不安に対し真摯に対応し、より信頼を得ていくこ
とが最優先であると考えております。

当社は、要請への対応について検討を重ねてまいりましたが、こうした基本的な考え方に
基づき、非常に厳しい状況ではありますが、現在運転中の浜岡原子力発電所4,5号機(4
号機:沸騰水型、定格電気出力113.7万キロワット、5号機:改良型沸騰水型、定格電
気出力138万キロワット)を停止することを本日、決定いたしました。4,5号機につい
ては、準備が整い次第速やかに停止いたします。また、停止中の3号機(沸騰水型、定格電
気出力110万キロワット)についても、当面運転再開を見送ることといたしました。

今回の要請の受け入れにより、お客さま、立地地域の皆さま、株主の皆さまをはじめ多く
の皆さまに多大な影響を及ぼすことが懸念されます。これらの方々に過度な負担、不利益が
生じないよう、経済産業大臣に対し、別紙1のとおり確認をいたしました。

今後は、津波に対する安全性を一層高めるため、防波壁の設置などの対策を速やかに実施
するとともに、地域の皆さまを始めとして、広く社会の皆さまにその内容をご説明してまい
ります。その上で、当社としては、中部地域への電力の安定供給のために早期の運転再開を
目指してまいります。
また、浜岡原子力発電所の運転停止により、今後厳しい需給状況となることから、別紙3
のとおり電力需給対策本部を設置し、電力の安定供給に向け、あらゆる施策を講じてまいり
ます。

別紙1 浜岡原子力発電所運転停止要請に係る確認事項
別紙2 2011 年度最大電力需給計画
別紙3 「電力需給対策本部」の概要
以 上

別紙1
浜岡原子力発電所運転停止要請に係る確認事項
公益性の高い事業を営む当社にとって、総理大臣からの今回の要請は事実上国の指示・命
令と同義であり、極めて重く受け止めている。今回の要請に基づき、浜岡原子力発電所を全
号機運転停止した場合、お客さま、株主、立地地域等関係者に多大な影響を及ぼすことが懸
念される。これらの方々に過度な負担、不利益が生じないよう、当社は事業運営全般にわた
り最大限努力するが、国としても十分な配慮、支援をお願いしたい。

1 今回の要請書のとおり、平成23年4月20日の当社報告書にある津波に対する防護策
及び海水ポンプの予備品の確保と非常用発電機等の設置を完了し、原子力安全・保安院の評
価・確認を得たときは、浜岡原子力発電所の全号機の運転が再開できることを確認したい。
また、原子力安全・保安院の評価・確認は、科学的・合理的見地から速やかに実施して頂き
たい。

浜岡原子力発電所の安全対策は、法令・技術基準等に基づき適切に実施されており、今
回の要請の趣旨は、福島第一原子力発電所の重大事故を受け、国民に一層安心頂くためのも
のであることを十分に周知して頂きたい。

3 全号機運転停止した場合、多大な追加費用負担が発生する。当社は最大限経営効率化に
努めるが、今回の要請は、お客さま、株主等に過度な負担を強いることを前提としたもので
はないと受け止めており、その回避・軽減に向け国として十分な支援をお願いしたい。

4 全号機運転停止した場合、需給バランスは非常に厳しくなる。当社は供給・需要両面に
おいて最大限努力していくが、国においても十分な支援をお願いしたい。

5 知事・市長はじめ立地地域への十分な説明、交付金・雇用等地域経済への十分な配慮を
お願いしたい。
以 上