プラットフォーマー(PF)が電力の自由化に参入するとどうなるか

4/8日経経済教室「電力全面自由化3年」依田高典・京都大学教授は、GAFA電力自由化に参入した場合の衝撃を述べる。

依田教授は「可能性は空想にとどまる」と限定するものの、「情報を利益に変換することに成功したら、もはや日本企業は太刀打ちできなくなるだろう」と警鐘を鳴らす。

 

PFが家庭の電力情報を握ったとして、どのように収益を稼げるのか。電気の中に広告を流すことは出来ないが、家庭の電力使用情報を企業に販売することが出来る。日本には約5,000万世帯があるので、それらの世帯の電力使用状況が丸裸になる。色々な企業がその情報を欲しがるはずだ。各世帯の電力料を10,000円/月とすると、家庭は全体で毎月5,000億円、年に6兆円の電力料を払っている。これが全て情報販売料で只になるとは思えないがかなりの値引きを家庭に提示できよう。こうなると、自由化で参入した電力販売業者は吹っ飛んでしまう。知恵のある人がすごい仕組みを生み出すだろう。情報収集システムにはネット・ワーク外部性があるので、独禁法で縛ろうとするのは邪魔になる。また、政府が乗り出して日の丸連合を作ろうとするのはビジネス・モデルの本質から、手の内をさらすことはないから無理である。

PFに乗っ取られないうちに、頭の体操をやっておくのが賢明である。

 

電力全面自由化3年 革新的サービス競い合え  依田高典 京都大学教授 一部抜粋

いだ・たかのり 65年生まれ。京都大経卒、同大経済学博士。専門は応用経済学、情報通信経済学

 

ネットビジネス分野で近年、米プラットフォーム(基盤)事業者のGAFA(グーグル、アマゾン・ドット・コムフェイスブック、アップル)が世界を席巻し、ビッグデータの寡占が競争政策や消費者保護の観点で問題となっている。GAFAが無料サービスと引き換えに収集した個人情報を基に、人工知能(AI)を使いプロファイリング(実態把握)するターゲティング広告を完成し、情報を利益に変換することに成功したら、もはや日本企業は太刀打ちできなくなるだろう。

 

幸いGAFAの持つデータは検索エンジンの入力情報やネットショッピングの購入履歴に限られ、電力・健康データは集められていない。かつてグーグルはスマートメーターを配布し、家庭向け電力ビジネスに参入しようとしたが間もなく撤退した。アップルも健康管理機能を備えたスマートウオッチを使って健康データの収集を狙うが、決定的な成功には至っていない。

 

しかし安心するのは早計だ。もしも資金が潤沢なGAFAが得意の無料ビジネスで電力・健康サービスをただ同然で提供し、個人情報の収集に乗り出したら一体どうなるだろう。国民の大切なデータは国外に拡散することになる。

 

今はまだそうした可能性は空想にとどまるが、日本の産官学はそれぐらいの危機感をもって、潜在的に経済的価値の高いビッグデータをどうやって守り、どのようにビジネスに活用するのかを考える時期に差し掛かっているのではないか。